第五話 彬③

蘇芳すおう、さま、お荷物はそれだけですか?」

「すおう、でいい。荷物なんて、あるはずがない」

 敬称は殿がいいか様がいいか悩んでいたけれど、呼び捨てでいいと言われてしまった。


 俺は蘇芳の荷物を持つと、本家が用意した車に乗り込んだ。蘇芳と並んで後部座席に座る。どう考えても電車で帰った方が早いのだが、車の方が安全だからな。

 横目で蘇芳を見る。

 目立つ。――目立ちすぎる!

 まるで炎のようなくせ毛の髪。そして、角度によっては金色にも見える紅い瞳。

 なんでも、術をかけてあるから、ふつうの人には黒髪黒瞳に映るらしいけれど、黒髪黒瞳でも目立つだろう、これは。

 強い光を持った大きな瞳に意志の強そうな口元。


 こんなのといっしょに学校へ行く?

 冗談だろ?

 あ。みお

 澪のこと、どうしたらいいんだろう? 説明? どんな説明が出来る?

 親戚の女の子が来ていてね、いっしょに学校に行くことになったんだ。これから行き帰り、三人でいいかな?

 って、絶対に駄目な気がする。

 駄目な気がするんだけど、他にどう言えばいいんだ?


「ねえ」

 考え込んでいたら、蘇芳に話しかけられた。

「はい」

「学校、とやらはどんなとこ?」

「勉強をするところですよ」

「敬語、やめろ。うざい」

「……同じ年の人間が集まって、勉強したり運動したり、いろいろするところだよ」

「ふうん。楽しい?」

「楽しいです、いや、楽しいよ」

「ふうん」

 でも、もう、俺の平和な学校生活はないような気がするけどね。


 思わず溜め息をつくと、「じゃあ、なぜそんなふうに溜め息をつくの?」と言われた。

 いや、それ、あなたのせいですよ?

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