第四話 彬②

「それであきらくんに頼みというのは、この蘇芳すおう殿の面倒をみてもらいたいということなんだ」

 と、青栁あおやぎまゆみは言った。


 俺は青栁本家の一室で、先ほどの紅い髪の美少女と向き合って座っていた。

 彼女は驚くことに、五色の地からこちらに渡ってきてしまった、朱火しゅかの土地守りだということだ。なるほど、それでこの容姿。

 蘇芳は白地に細かな紅花を散らした着物を着て、金色に赤の流紋が入った帯を締めていた。髪は長く垂らしたままだったが、それは彼女の美しさを引き立てていた。


「……それはどういうことでしょうか」

「蘇芳殿は当面こちらにいらっしゃる。本家で面倒を見る予定だったが、みなと同じような生活がしてみたい、とおっしゃるので、彬くんと同じ高校に転入手続きをとったんだよ」

 俺の学校に転入? 何か裏の手を使ったな。なかなか入れないはずだ。しかし、この屋敷からだと高校はずいぶん遠いと思うのだけど。

「そこで、蘇芳殿はきみの家に滞在して、……彬くん、きみに彼女を護ってもらいたい」

「……は?」

 いかんいかん。あまりに驚いて、優等生にあるまじき反応をしてしまった。


「それはどのような意味でしょうか」

「言葉の通りだよ。蘇芳殿はきみの家に住んで、きみといっしょにきみと同じ高校に行くんだ。もちろん、柾くんの許可もとってある」

「それは、いつまで?」

 そこで、青栁まゆみは深い溜め息をつき、「蘇芳殿が五色ごしきの地に還るまで」と言った。

「それは、いつのことでしょう?」

「分からない」

「え?」

「ほんとうに分からないんだ。この青栁本家の屋敷内には、五色の地に繋がる場所がある。そこは青栁の先祖である、緑青の土地守りが現れたとされている場所だ。しかし、そこに五色の地のものが現れたことはなかったんだ、これまでは。でも」



 この前の満月の夜、異変を感じてそこに行くと、紅い髪の少女がいたというわけだ。

 話を聞くと、少女はなんと朱火しゅかの土地守りで、気づいたらここにいたと言う。


 その後、いろいろな策を講じて還そうとしたけれど、叶わなかった。

 土地守りは通常十代後半で成長が止まる。しかし、蘇芳は本当に見かけ通りの年齢で、要するに非常に幼かった。つまり、本家でも扱いに困っていたのだ。ふつうの暮らしがしたい、と駄々をこねるので、ちょうどいい、柾の息子が同い年ではなかったか、では柾のところに預けてしまおう、幸いあそこは異能を持った人間が二人もいるし、ということになったそうだ。



 もともと、本家のまゆみさんの話では断れるはずもなく、父さんが了解しているのならなおさらだった。まゆみさんは現当主のまきさんの夫で、本家の仕事を束ねている人間だ。「頼み」というより、それは「命令」を意味していた。


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