第二節 炎のような女の子【彬】

第三話 彬①

あきら、今日の帰り、いっしょに本屋さん行かない? 塾ない日だよね?」

 放課後、そう言うみおに「ごめん、今日はちょっと用事があって」と答え、「あ、親戚関係の」と付け加える。青栁あおやぎの血筋に関することは、話せないのでこんな言い方しか出来ない。間違いではないから、いいだろう。


 澪は「うん、分かった」とにっこり笑う。よかった。正直、ここを疑われたり根掘り葉掘り聞かれると、ちょっとめんどくさい。澪はそういうことがないから、一緒にいられる。


 帰りも駅まで澪と帰る。儀式のように。

 駅に着いて、澪とは違う方面の電車だからそこで別れる。

「じゃあ、明後日、学校の帰りにいっしょに本屋さんに行って、ごはん食べない?」

「うん、いいよ」

 俺は澪に手を振ると、青栁の本家に行くべく、ホームへ向かった。



 青栁一族は、かつて、五色ごしきの地からこちらに渡ってきた緑青ろくしょうの土地守りから始まっている。ゆえに、異能を持つものが現れる。かなり血は薄まっているから、全員が能力を持って生まれてくるわけではない。しかし、やはり本家に近い血筋には異能を持つものが現れる。青栁はそうして、その能力でもって栄えてきた一族なのだ。例えば、父さんみたいな未来予知の能力は非常に役立つことは言うまでもない。


 父さんの母親が本家の三女だったのだ。本来、俺の代ではもう異能はほとんど現れないくらいの立ち位置のはずが、父親が能力者で母親が土地守りであったためか、俺も能力を持って生まれた。しかし、弟のみなとには異能はない。


「湊のあれは、思春期でふてくされているっていうより、むしろ」

 湊は中学二年生の後半くらいから、しゃべらなくなってしまい、部屋に閉じこもりがちになった。あれは自分に異能がないっていうことに対するコンプレックスみたいなものだったんじゃないかと、俺は思っている。


「だから、結局よかったんだよな」

 母さんから土地守りの魂だけが持って行かれて。

 母さんがいなくなってしまうかもしれないという危機感と母さんから異能がなくなってしまって只人になったという奇妙な安心感から、湊は近ごろとても落ち着いてきた。

「まあ、理由はそれだけじゃないだろうけど」


「何ブツブツ言ってんのよ」


 青栁本家の、まるで老舗旅館のような門の前でインターフォンを押そうとしたとき、いきなりそう言われて驚いた。

 見ると、門のところに、燃えるような紅い髪をした女の子が立っていた。

 ゆるくウェーブのかかった、腰まである長い紅い髪。陽の光に、髪が煌めいて小さな火花を散らしているように見えた。

 そして、大きな瞳。

 紅い、強い光。

 きつい視線。しかし、とびきりの美少女だった。


 俺はその、炎のような女の子から目が離せずにいた――

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