第五節 それぞれの路 ―――――――

第三十一話 夢もしくは現

「樹里!」

 目を開くと、柊護がいた。そして、浅黄も。

「じゅり~」

 浅黄が身体の上に乗って来て、あたしは浅黄を抱きとめる。なんて愛しい重み。


「あたし……?」

「起きられる?」

 柊護に言われて、ゆっくり身体を起こす。

 髪が、さらさらと――若葉色の髪が、流れ落ちた。

 あたしは自分の手をじっと見た。

「鏡、いる?」

 と柊護が言うと、浅黄がたたたっと走って、鏡を取って来た。


「あ……」

 鏡の中には、若葉色の髪をして若葉色の瞳をした、あたしがいた。

「それが、本来のきみの姿だから」

「柊護」

「霊体じゃなくなったよ、樹里」

 涙が溢れた。

 あたし、ここにいられるんだ、ずっと。

「よかった。……ありがとう、柊護、浅黄」


 柊護の説明によると、どうやらあたしは、五色の地の肉体に定着したらしい。

「魂を分断?」

「そう。土地守りとしての樹里だけ、こっちに来たんだ」

 柊護はあたしの髪を撫でた。若葉色の髪。

「樹里。樹里は、魂を分断してこちらに来たから、土地守りとしての力は弱いかもしれない。それに、どんな不調をきたすか分からない。何しろ、前例のないことだから。……でも」

 柊護は言葉を切って、あたしを見つめた。そして、あたしの手を握る。


「でも、それでもいい。いいんだよ、樹里。いてくれるだけで」

「柊護」

「これから、いっしょに生きていこう。ここで」

「うん」

「あさぎもー‼」


 部屋に夕陽が射し込んでいた。

 あたしと、柊護と浅黄の影を作る。

 開け放たれた戸の向こうには、広い濡れ縁があり、そのさらに向こうには豊かな緑が広がっていた。

 なんて美しい。

 陽が、きらきらと光を送る。

 ――枯れた荒れた土地を思う。

 あるべき美しい姿へ、きっと変えてゆこう。


 柊護とともに。

 

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