第二十九話 夢ゆめ

 柊護の顔が見える。

 よかった。

「柊護」

 手を伸ばして柊護に抱きつく。柊護に抱きしめられて、安心する。


 伝説?

 ――黒玄と緑青は、異性で生まれた場合、必ず惹かれ合う。

 それとも、それは運命?

 ……分からない。分からないけれど、あたしは柊護といたい。


「じゅりっ!」

 浅黄が駆けてきた。浅黄はいつも走って来る。そしてあたしに抱き着く。あたしは浅黄を抱きとめる。

「あさぎ」

「じゅり、どこにもいかないで。ずっとここにいて」

 浅黄。

 浅黄は黄王の子どもだって、柊護が言っていた。

 お父さんやお母さんと、どうしていっしょにいられないんだろう? ……さみしいよね。


「樹里」

「柊護。あたし、ここにいたいよ。どうしたらいいの? ――戻りたくない」

「樹里、きみをここに繋ぎとめるための絆が必要なんだ」

「きずな?」

「うん」

「それは……柊護や浅黄のこと?」


 柊護は頷いて「そう。そして、お互いを必要だと、大切だと思う気持ち」と言った。「それから、この地を思う気持ちも」

 枯れた土地、荒れた土地を思い出して胸が痛んだ。あたしはこの地をあるべき美しい姿にしたい。


「じゅり」

 かわいい手が、あたしの手をぎゅっと握る。

「浅黄」

 そして。

「柊護」

 柊護が、あたしと浅黄を抱きしめた。

「樹里、こっちに来て。浅黄も」

 柊護はあたしと浅黄を、若葉色の髪をしたのそばに呼んだ。


「ここでは、気持ちが形になるんだ。想いがこの世界を創る。だから、祈って――樹里の魂がこの肉体に宿りますように、と」

 柊護があたしの手をとって、あたしの肉体の上に置く。浅黄もその上に小さな手を重ねる。



 お願い。

 あたし、ここにいたいの。

 あたしに出来ることは何でもしたい。

 あたしは柊護と浅黄のそばにいたい。

 柊護が好き。

 柊護といっしょいにたいの。


 光が。

 光が射した気がする。

 眩しすぎて、何も見えない。


「樹里!」


 誰かの声が、聞こえた――

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