第二十七話 現うつつ①
目を覚ますと柾くんの顔があった。
「柾くん……柾くんは、識っていたの?」
「樹里ちゃん」
柾くんの、困ったような顔。
……分かるよ。ずっといっしょにいたんだもの。識っていたんだね。
また、涙が溢れてきた。あとからあとから溢れて、止まらなかった。
「……柾くんは……わたしが土地守りだから、いっしょにいてくれたの?」
「違うよ! それは絶対に違う‼」
柾くんはわたしを抱き起し、そして抱きしめた。
柾くん。
わたし、柾くんといると安心出来たんだよ。
でも、それはわたしが土地守りだからなの?
柾くん。
いっぱい優しくしてくれたのは、それはわたしが土地守りだからなの?
柾くん。柾くん。柾くん。
「樹里ちゃん、僕の話を聞いて。僕をちゃんと見て。……こっちに、ちゃんと戻ってきて!」
「柾くん」
柾くんの顔を見つめる。ああ、柾くんだ。
「柾くん」
どうしよう。息が苦しい。
「樹里ちゃん、落ち着いて。ゆっくり息をして」
過呼吸みたいになり、柾くんに背中をなでられる。
「樹里ちゃん、夢を振り払って。ちゃんと、僕を見て?」
「柾くん」
「いつからいっしょにいたと思っているの?」
「……柾くん……」
「僕が、義務感とか使命感で、誰かを好きになったり誰といっしょにいたり出来る人間だって、ほんとうにそう思うの? 僕のこと、ちゃんと見て答えて」
「……思わない……ごめんなさい」
「大丈夫。落ち着いて」
「うん……ありがとう」
あのね、柾くん。
わたし、柾くんがいないと駄目なんだ、きっと。
わたしのお父さんもお母さんも、わたしに愛情を注いで育ててくれた。
お父さんもお母さんも大好き。
でも、どうしてか分からないけれど、何かに隔てられていて、あたし、甘えることがうまく出来なかった。
ずっと、その理由が分からなかった。
でも、分かったよ。わたしの一部は向こうの世界に在ったからなんだね。
柾くん。
わたし、柾くんにはちゃんと自分を出せることが出来るの。
柾くん。
ずっといっしょにいるよって約束したよね?
ずっと、いっしょにて。
わたし、柾くんといっしょがいい。
柾くんがいいの。
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