第四節 土地守りの肉体に宿る魂 ―――――――
第二十五話 夢ゆめ①
柊護とのキスは一瞬だった。
キスのあと、あたしは「わたし」として柾くんに会い、そしてすぐにこちらに戻って来た。
いったい、どっちが現実なんだろう?
――いまのあたしのリアルはこっちにある。
柊護。
あたしは、若葉色の髪のあたしの前にいて、そして柊護の腕の中にいた。
「……これは?」
「樹里の肉体」
「肉体?」
「そう。樹里はね、向こうの時間軸で十七年前に転生するはずだったんだ」
十七年前。彬を産んだ年。
もしかして。
「あの事故?」
「そう、あの事故で樹里は死んで――こちらに来る予定だったんだ」
でも、あたしのあちらの世界との繫がりは想像以上に強く、また、加護の力が強力に働いて、かすり傷ひとつ負わなかった。
柊護たち、五色の地の人間はひどく落胆した。
なぜなら、緑青の土地守りの不在は森を枯らし田畑を荒廃させ、食糧の調達に直接的に深刻な不具合をもたらしたからだ。ずっと、他の土地守りの力でなんとかやってきたが、あまりに永い不在のため、限界に来ていた。特に、緑青の土地の荒廃はひどかった。
しかし、望みもあった。
五色の地があまりに強く緑青の土地守りを望んだため、肉体だけ、生まれ落ちたのだ。転生した緑青の土地守りの赤ん坊が。
魂は入っていなかった。
ゆえに動くことはない。
しかし、その、赤ん坊はやはり加護の力を受け、また土地の力もあり、魂のないまま眠ったまま、肉体だけ成長していった。向こうの時間軸に合わせて。
「黒玄はね、緑青と近しい存在なんだ。だから、人手のなくなった木の館ではなく、水の館できみの肉体をお預かりしていたんだよ」
柊護は愛おしそうに、若葉色の髪を撫でた。
「僕はね、樹里。ずっとずっときみのことを待っていたんだ。ほんとうに。おかしなことだと思うかもしれないけれど、僕はずっときみのことが好きだったんだ」
柊護は、今度はあたしの髪をひと房とって、髪に口づけをした。
「柊護……」
心臓がばくばくしている。
「喋って動いているきみはどんなだろうって、どんな声をしているんだろうって、ずっと想像していたよ、樹里。――想像よりもずっときみは素敵で――きれいだ」
柊護があたしにキスをする。
今度は長く――何度も。
「伝説があってね、黒玄と緑青は、異性で生まれた場合、必ず惹かれ合うって。……ほんとうだったよ、樹里。少なくとも、僕は」
何も言えずにいると、柊護はあたしを抱き寄せた――そのまま、抱きしめられる。
「樹里。こっちにおいでよ。いっしょにこの土地を守っていこう」
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