第二十四話 現うつつ②

「樹里ちゃん」

 名前を呼ばれて、目が覚めた。

「……柾くん」

「樹里ちゃん、大丈夫? 夕ごはん、食べられる? 作ったよ」

「……パスタ?」

「うん、パスタ。冷蔵庫の中のもので」

「ふふ。……あのときも、パスタ食べた」

 

「僕たち、そろそろちゃんとおつきあいしてもいいよね?」

 柾くんはパスタを食べ終わって、そう言った。わたしたちは高校を卒業した春休み、二人で食事をしていた。

 わたしはまだ食べている最中で、……かたまってしまった。


「樹里ちゃん?」

「う、うん」

「いいってことだよね?」

 柾くんはにっこりと笑う。

「あああ、あの! その前に告白とか……」

「僕、何度も樹里ちゃんに『好きだよ』って言っているよ?」

「あああ、あの、それは……社交辞令かと……」

「僕、樹里ちゃんにしか、そんなこと、言ったことないよ」


 ……知っている。

 本当は、ずっと知っていた。柾くんの気持ちも。

 それから、の気持ちも。


「あたし……」

 柾くんはわたしの手を取り、「樹里ちゃん、好きだよ」と言った。

「ずっとずっと好きだよ。変わらないよ。……だから、安心して?」

「……うん」

「樹里ちゃんは僕のこと、どう思ってるの? 教えて?」

「……うん……」

 恥ずかしくて答えられないでいると、柾くんはもう一度「樹里ちゃんの口から、ちゃんと聞きたいから。……教えて?」と言った。

「……すき……」

 蚊の鳴くような声になってしまった。

 柾くんは、わたしの手をとって「ありがとう」と手にキスをした。そして、「じゃあ、今日から、恋人同士だね」とにっこりとした。

「……うん」

 わたしは、恥ずかしくて恥ずかしくて顔が上げられなかった。柾くんの顔が見られない。


 柾くんとわたしはその後、お店を出て散歩をした。

 柾くんはとても自然にわたしの手をとって、手を繋いだ。

 手から、心臓の鼓動が聞こえてしまうかと思った。

 海の見える公園に着いて、柾くんは「砂浜まで行こうか」と言って、砂浜を散歩した。


 夕暮れの海を二人で眺めた。

「きれいだね」

「うん、きれいだ」

 夕暮れの海を眺めていたら、少しずつ緊張が解けて、柾くんの顔が見られるようになった。わたしは柾くんの顔を見て、柾くんもわたしの顔を見た。しばらく、そのまま見つめあった。

 柾くんはわたしの目をじっと見て言った。

「樹里ちゃん、ずっと好きだったよ。これからもずっとずっと大好きだよ」

 そう言って、柾くんはわたしにキスをした。


 初めてのキスだった。

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