第二十二話 夢ゆめ②

 黒玄の土地守りの地を散策する。


 人は皆、黒髪黒瞳で、日本人に近しくてなんだかほっとした。

 人々は柊護を見て、挨拶をした。

「柊護さま!」「柊護さま、作物をお持ちください!」「柊護さま、私はお着物を!」

 行く先々で柊護は様々なものをもらい、これ以上持てないほどになった。

「柊護は人気ものだね」

 あたしが言うと、「樹里も見えればね」と柊護は言った。


 この土地は、あたしがいた、木の館の周りよりも湖や川が多い気がした。それから、肌寒くて冬の気配がした。作物も冬野菜が多い。それに、緑青の地より、日用品を作る家が多いような気もした。

「もしかして、ここは一年中冬?」

「うん、そう。ただでも、僕が気候を制御しているから、雪が降り続くことはない。雪が必要なときは雪を降らせるけどね。緑青は春だし、朱火は夏、白金は秋で、黄王の地は四季がある。いま、黄王の地が春だから、ここもそれほど寒くないわけ」


「……ほんと、不思議」

 あたしは冬の澄んだ空気をいっぱいに吸い込んだ。冬でもここは豊かだ。それはきっと柊護がいるからに違いない。

「樹里。いったん、館に戻っていい? 荷物を置きたいし、たぶん、浅黄もそろそろ眠くなるころだから」

「うん!」


 水の館に戻り、浅黄を寝かせる。

 ふたりで浅黄の寝顔を見ていたら、柊護が真剣な顔で「……ずっと迷っていたんだけど。樹里にがあるんだ」と言った。「ついてきてくれる?」

 あたしは頷いて、柊護のあとをついて行った。


 大きな日本家屋。広い。やはり檜の香りがして、とても居心地がいい。至るところに、水の仕掛けがあって、屋内なのに水琴窟みたいなものまであった。そこここに、使用人らしき人たちがいて、柊護が通ると、皆頭を下げた。男性も女性も、黒髪黒瞳で、そして統一された黒っぽい着物を着ていた。


「広いねえ……」

「館? 木の館も手入れをすれば、同じくらい広いよ」

 想像出来ないけれど。

「……着いたよ。……入って」

 柊護はそばにいた人たちに手で合図をして下がらせた。

 あたしは、柊護と二人で、その部屋に入った。


 部屋の中央に、四方を薄布で囲まれた場所があり、そこは布団が敷かれていて、誰かが寝かせられているようだった。

 あたしはなんとなく緊張して、その薄布の中に入った。


 そこには、

 いや、


 驚いて振り向いたとき、柊護と目が合って――柊護はあたしに、触れるだけのキスをした――

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