第二十一話 夢ゆめ①
目覚めると、浅黄のかわいらしい顔があった。覗き込むようにして、あたしを見ている。
「あさぎ」
「じゅり! しゅうご、じゅり、きたよ!」
たたたっという足音を響かせて、浅黄は柊護を呼びに行った。
「樹里おかえり」
「ただいま、柊護」
自然にそう言ってしまってから、あたしは口を押さえた。――ただいま?
「樹里、今日はいっしょに領地を回らない?」
「うん」
「あさぎもー!」
「浅黄もいっしょに行こう」
柊護は立ち上がって、あたしに手を差し出した。あたしは柊護の手をとって立ち上がった。
「今日は歩いて行こうか」
あたしたちは浅黄を真ん中にして、並んで歩いた。
浅黄は終始はしゃいでいた。
「浅黄! そんなに走ったら転んじゃうわよ!」
「じゅりー!」
浅黄は振り返って笑う。
「……浅黄、楽しそうだ」
「うん」
「樹里がいるからだよ」と、柊護はあたしの顔を覗き込む。……近い! なんか、距離、近いから!
あたしは顔を赤くさせながら「そ、そんなこと、ないと思うよ」と言った。
「そんなことあるよ。浅黄、ずっとさみしそうだったから。館にいて、大切にされていても、浅黄はお客様扱いだったから。――出自は明かさずに大切な方の子どもだと言って、水の館でお育てしたんだ。まあ、なんていうか、僕の子どもだと思われている節もあったけれど」
「えっ。そ、そうなの?」なぜだか、どもってしまう。
「うん、皆には、浅黄は黒髪黒瞳に見えているからね」
「でも、柊護、あたしと同じくらいの年齢よね。まだ結婚とか早いよね」
なんとなく焦ってそう言うと、柊護はあたしの顔をじっと見て、「僕は見た目通りの年齢じゃないよ」と言った。
「ええ?」
「土地守りはある年齢に達すると、年をとらないんだよ。樹里も、向こうの年齢と違うでしょう」
「う。そ、そうだけど」
現実の年齢を思い出して、どきっとしてしまう。あたし、そう言えばもうおばさんだった! どうしよう! ……どうしようって、何が?
あたしがなぜだか焦ってどぎまぎして顔を赤くさせていると、柊護が笑って言った。
「樹里、かわいい! 土地守りには年齢って、あんまり意味がないんだ。若い身体と若い精神でないと、土地守りとしてやっていけないから」
そう言えば。
――土地守りとして赴く際は、ふさわしい姿と精神になる。
そんなこと、言われていた。精神も若返るって……。
じゃあ、あたしは、「わたし」ではないの? あたしって、いったい誰なの? 「わたし」の記憶はある。でも、姿は十代半ばで。高校生の「わたし」とも違う。だって、あたしは「わたし」が柾くんと結婚して、彬と湊っていう子どもがいるのもちゃんと分かっている。でも、あたしは、こころも十代半ばってことよね? 確かに感じ方が「わたし」とは違う気がする。
ねえ。あたしって、いったい何者なの?
「樹里?」
「え、あ、うん」
ふいに深い思考に陥っていたところを、引き上げられる。
「ここからはね、山を下るから、飛んで行こう」
「わーい!」と浅黄。
「土地守りの館はどの館も山の頂にあるんだ。木の館もそうだったでしょう?」
「うん」
「山道は険しいからね。……はぐれないように、手を繋ごう。浅黄は僕が抱っこするから」
浅黄はぴょんと柊護に飛びつき、あたしは差し出された手を掴んだ。
……なんだかどきどきしてしまう。顔が赤かったらどうしよう?
柊護に導かれ、まず空高く上に上った。
「……わあ、きれい……手裏剣みたいな形をしている土地なのね」
「そうなんだ。……あの中央の山にあるのが、黄王の土の館、そしてさっき僕たちがいた水の館があそこの山の頂にあって、方角は北。その右下が東の山で、樹里の木の館があるところだね。それから、水の館の対面にあたる山が南で、朱火の火の館がある。火の館の左上、木の館の対面が西の山で白金の金の館があるんだ」
「なんだか、とても不思議」
「……土地守りがこの世界を支えているんだよ。それぞれの山を中心にそれぞれの集落がるんだ。今からは黒玄の土地に行くね」
「うん」
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