第十九話 現うつつ①

 ……夢……


「柾くん」

 ベッドの中で目を覚ますと、すぐそばに柾くんがいた。

「ん?」

「……わたし、夢の中で柾くんに会った……」

「僕に?」

「うん。高校生の柾くんに」

 夢の世界に戻りそうになる。――夢? あれ? 


「樹里」

 柾くんはわたしのおでこに手をやった。

「熱はないみたいだね」

「うん。……ふわふわしてる」

「ちょっと様子を見に来たんだけれど……起きられる?」

「……うん、起きる」

 わたしは身体を起こすと、髪を整えた。


 そう、わたしの髪はいま肩くらいの長さだ。そして、栗色に染めている。もうずっと、髪を長く伸ばしたことはなかった。

 なんだろう?

 わたし、髪が長いような気がしていた。さらさらのまっすぐな黒髪。

 それはわたしが高校生のときにしていた髪型だ。

 ……頭が重い……。

 変な夢を見ているせいだ。

 わたしは夢の残滓を振り払うようにして、前髪をぎゅっと後ろにやって、それから背筋を伸ばして、ベッドから出た。


 リビングに下りていくと、柾くんがコーヒーを淹れてくれていた。

「ありがとう」

「うん、少しすっきりするかな、と思って。僕も休憩したかったし」

「……ごめんね、調子悪くて」

「何言ってんの。……あ、そうそう。僕ね、会社で寸志がもらえるよ」

「寸志?」

「うん、会社のアイディアコンクールみたいなものに応募していて、入賞したんだ」

「へえ、よかったね!」

「家族旅行、行けるくらいあるよ。どこか行く?」

「嬉しいなあ。東北がいいかな? あ、でも湊、受験だから……」

「まだ大丈夫だよ。どこに行きたいか、彬や湊とも話し合おう」 

「うん!」

 気持ちが浮き立つ。

 ……あれ? 何かが気にかかる。


 ――土地守りとしての役割を果たせば、いまお前が生きている世界で恵みがもたらされるであろう。


 ……恵み? これが?

 ……頭痛い……

「樹里? 大丈夫?」

「……大丈夫。ちょっと、頭が痛いだけ」

「もう少し寝ていたら?」

「うん、ありがとう」

「寸志の使い道、考えながら眠りなよ」

 と柾くんが笑う。

「そうする」

「……樹里は運がいいから、大丈夫だよ」

「え?」

「ほら、彬がお腹にいたときも」

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