第十八話 夢ゆめ②

 この世界は五色ごしきと呼ばれている。

 中央に黄王こうおうの地があり、土の館がある。黄王は黄央こうおうの土地守りであり、世界の中心に位置しているのだ。そして、黄王の地を取り囲むように、緑青ろくしょうの土地守りの地、黒玄こくげんの土地守りの地、白金はくきんの土地守りの地、朱火しゅかの土地守りの地がある。そして、緑青は木の館、黒玄は水の館、白金は金の館、朱火は火の館を持つ。館の名前が、その土地守りの属性をそのまま表していた。

 また、それぞれの持つ色もあった。

 緑青は青系統、黒玄は黒系統、白金は白系統、朱火は赤系統の色で、そして黄王は黄色系統だった。


「ああ、だから。あたしの土地の集落の人は緑や青色の髪や瞳をしていたのね」

「そうだよ」

「そして、だからさっきお茶を持って来たくれた方は黒髪黒瞳なのね」

「そうそう」

「じゃあ、浅黄は」

 浅黄は名前が出て、にっこりと笑った。「じゅり」としがみついてきて、ほんとうにかわいい。


「浅黄はね、黄王の子どもなんだ」

「黄金色の髪だから。瞳も」

「そう。で、だから、樹里のことが見えるし、触れ合える」

 柊護に髪を撫でられて、どきっとしてしまう。

「う、うん。よかった、あたしのことが見えて。迷子になって泣いていたもの」

 浅黄をぎゅっと抱きしめる。


「あのときはね、実は樹里を探しに行っていたんだよ。浅黄もいっしょに行くって聞かなくて連れて行ったんだ」

「そう」

「……きみが、きっと困っていると思って」

「え?」

 柊護と視線が絡まる。

 ……ああ、その表情、柾くんにほんとうによく似ている。


 黄王も土地守りの一人だ。ただ、他の土地守りよりも力が強い。土、木、水、金、火、五つの力全てに秀でた黄王もいた。力の強弱は個人差があるらしい。また、他の土地守りも属性の力が一番巧みに使えるということであり、他の四つの力も微弱ながら使えた。これもまた個人差があり、土地守りによっては、ある一つの力が全く使えないということも、歴史の中ではあるらしかった。


 あたしは、田畑を蘇らせたときのことを思い出した。

 あのとき、あたしは土の力も水の力も使っていたのではないだろうか。でないと、説明がつかない。

 あたしは、あたしの手をじっと見つめた。

「どうしたの?」

 柊護が言う。

「うん、あたし、枯れた地を蘇らせたいと思って」

「うん、そうだね。でもね、樹里がここに存在しているだけで、全然違うんだよ。ずっと、みんな、待っていたんだ。緑青の土地守りがこの世界に再び存在する日を。……僕も、ずっと待っていたよ。樹里が来る日を」

「え?」

 柊護があたしの目をじっと見て、あたしの頬に手をやった。

 ――柊護?


 ここでの意識は途絶えた。

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