第十六話 現うつつ②
高校生のときも、やっぱり同じようなことがあった。
不思議。
ここのところ、高校のころのことを鮮やかに思い出す。
あの日はバレーボール大会で、初夏なのにすごく暑い日だった。高校一年生のときだ。
わたしは暑さに弱くて、自分の番が終わったあと、みんなを応援しながら意識が遠くなるのを感じていた。でも、我慢すれば大丈夫かと思って、応援席にいた。
肩をとんとんとされて振り向くと、柾くんがいた。
「伊東さん、ちょっと来てくれる?」
まだあのときは名字で呼ばれていたんだ。
立ち上がろうとしてふらっとしたところを柾くんに抱えられるようにして、応援席から出て、ひんやりした木陰に行く。
顔に冷たく濡れたタオルをあてられ、それからスポーツドリンクを渡された。
「無理しない方がいいよ。――横になって。熱中症になりかけているんじゃないかな? つらいでしょ」
「なんで……」分かったの、と言おうとして言えなかった。
「しばらくここにいればいいよ。みんなにはちゃんと言ってあるから、大丈夫」
いつの間に?
「あり……」ありがとう、と言おうとして、やっぱりうまく言葉にならなかった。
「しゃべらなくていいよ。心配しないで」
わたしがそこで休んでいる間、柾くんはずっとそばにいてくれた。
そうだ。
あのあとから、「樹里ちゃん」って呼ばれるようになったんだ。そして、わたしも「柾くん」って呼ぶことにした。
お礼に、「コンビニで何かおごるね」って柾くんに言ったら、「じゃあ、いっしょに帰ろう」と駅までいっしょに帰り、駅の近くのコンビニに立ち寄った。
「青栁くん、何がいい?」
「んーと、何がいいかな?」
「あっ」
「え?」
「……シュークリーム、おいしそうだなって」
柾くんはくすっと笑って、「じゃあ、僕もそれにしよう」と言って、シュークリームを二つと飲み物をレジに持って行った。
「はい。いっしょに食べよう」
「あの、でも、あたしが……」
「いいからいいから……樹里ちゃん」
「え?」
「って、呼んでいいかな?」
「え、あ、うん!」
「僕のことも名前で呼んで?」
「え? あ、あの……柾、くん」
「うん」
「今日は、ありがとう」
「どういたしまして!」
柾くんはそう言って、にっこり笑った。
柾くんの笑顔、安心する。
そうだ、あのときから、「伊東さん」「青栁くん」から「樹里ちゃん」「柾くん」になったんだ。そして、わたしの調子が悪いとき、シュークリームを買って来てくれるようになったんだ。
懐かしいな。
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