第十三話 夢ゆめ①

「浅黄!」

 あたしは意識を取り戻すと、すぐに浅黄を探した。

 あんな小さい子を一人にしてしまうなんて。

「じゅり」

 舌足らずの声が聞こえて振り向くと、黄金きん色の髪の浅黄がいた。

「浅黄」

 あたしは浅黄をぎゅっと抱きしめる。よかった!


「やあ」

 ふいに人の気配がして、あたしはびくっとなった。誰?

 見ると、男の子がいた。

「ありがとう、この子をたすけてくれて」

 にっこりと彼は笑った。

 ……このひとも、あたしが見えるんだ。

「あたし、樹里。……あなたは?」

「僕は柊護しゅうご

「しゅうご……あたしが見えるのね?」

 あたしは柊護に手を伸ばして――触った。……触れる。


「――あなたは、誰?」

 柊護はあたしの顔をじっと見つめて、「君と同じだよ」と言った。

「僕も土地守りなんだ」

「え?」

「僕は黒玄こくげんの土地守り。きみは緑青ろくしょうの土地守りでしょう?」

 柊護が差し出した手を、あたしは握った。

 柊護は煌めく笑顔で笑った。黒髪が風になびく。男性にしては長めの髪。さらさらできれい。……誰かに、似ている気がする。


「樹里は珍しい存在なんだ」

「そうなの?」

 あたしは眠ってしまった浅黄を膝に抱きながら、柊護と話をしていた。

 本殿から外の緑を眺めながら。

「僕はね、、こっちに来たんだよ」

「え?」

「もうあまり覚えていないけどね、小さいときだから。浅黄くらいのときかな? 公園で誰かに呼ばれて――それでこっちに来たんだよ。『神隠し』だね」

「……そう……」

 何でもないことのように言うけれど、それはとてもつらいことだと思った。柊護にも、柊護の両親にとっても。


「あ、そんな顔しなくて大丈夫。僕、ここでよくしてもらっているし」

「うん」

「それでね、僕は、向こうの姿のまま、こっちに来たわけ。肉体を持って」

「そうなんだ」

「樹里は霊体でしょう?」

「うん」


 しかも、眠っている間しか、こっちに。――最初は乗り気じゃなかったけれど、浅黄のことが気になって。……不便だと思ったのだ。


「霊体のままっていうのは、ほんとうに稀なんだよ」

「そうなの?」

「うん。みんな、肉体を持っている。霊体ではなくね。こちらで生まれたり、向こうから肉体を持ったままこちらに来たり。まあ、たいていはこちらで生まれるんだけど。樹里は肉体を残したまま、霊体だけこっちに来ているでしょう?」

「うん」

「そんな例は樹里しか聞いたことがないよ」

「そうなんだ」

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