第十一話 現うつつ①
――ひどく目覚めが悪かった。
身体が重い。眠りに引きずられている感じで、ベッドから起き上がることが出来ない。
――眠い。とても暴力的に。
「樹里ちゃん?」
「なんだか、ちょっと調子が悪いみたい」
「今日は寝てたら?」
「え、でも」
「大丈夫だよ。僕がなんとかしておくから」
「だけど、お弁当とか」
「んー、適当に作っておくよ。大丈夫だよ。寝ていて」
「……ありがとう」
わたしは柾くんの言葉に甘えて寝ていることにした。
……柾くんは、ほんとうに優しい。
出会ったときから、ずっと優しい。
わたしと柾くんは高校生のときの同級生だ。
彬にそう言うと、「マジ⁉ いったい何年のつきあい? 俺くらいの年からずっといっしょにいるわけ? 飽きないの?」と言われるけれど。
彬の言葉に、柾くんは「飽きるわけないだろ」と言って笑う。わたしももちろん飽きたりしない。気づいたら、長い時間をいっしょに過ごしていただけだ。あまりにもあっという間の時間だった気がする。
柾くんとは高校の一年生のとき、いっしょのクラスになって知り合った。よくしゃべるようになったのは、読んでいる本が同じだったからだ。
高校に入学したばかりのとき、友だちがいなくてとても心細かった。でも、柾くんと仲良くなれたことで、高校生活がとても楽しくなった。高校生のころから、柾くんは何でも出来て、かっこよくてみんなの人気者だった。
「なんで、あたしと仲良くしてくれるの?」
そう、聞いたことがあったような気がする。
確か、中庭でいっしょにお弁当を食べているときだ。柾くんは目を細めて笑って「どうしてそんなこと、言うの?」と言った。
楠木がさわさわとして、時が止まったかのように感じた。
「だって」うまく言葉が出てこない。
柾くんは「樹里ちゃんだからだよ」と答えになっていない答えを言って、わたしの頭を撫でた。
高校の三年間、ずっといっしょにいた気がする。最も、二年生からはわたしは文系で、柾くんは理系だったからクラスは違った。だけど、お昼休みはいつもいっしょにいたし、帰りもいっしょに駅まで帰った。
この話を彬にすると「それでつきあっていたんだよね?」と言うのだけれど、でもつきあっていたわけじゃない。だって、「つきあって」と言われていなかったから。
……そう言うと、彬はなんとも言えない気の毒な顔をして、柾くんを見るのだけれど。
高校を卒業して、別々の大学に行くことが決まったとき、柾くんが「僕たち、そろそろちゃんとおつきあいしてもいいよね?」と言ったのだ。だから、あのときがわたしと柾くんがつきあい始めたときだって、わたしは思っている。
……これも、彬に言うと溜め息をつかれるんだけど。
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