第二節 あるべき美しい姿へ ―――――――

第九話 夢ゆめ①

 あたしは、に緑を取り戻したいと強く願っていた。

 山頂の本殿から出発し、少しずつ少しずつ緑を取り戻して行った。そして、広範囲に移動して、緑を再生していく。


 すると、この世界にも人間がいることが分かった。

 枯れてしまった田や畑――胸が痛んだ。

 枯れた田畑に降り立つ。そして、祈る。

 すると蘇る田畑――人々の喜びの顔。


 あたしは確かに霊体であるらしかった。

 あたしからは人は見えるのだけど、向こうからあたしは見えないようだった。ただ、その中にも気配を感じる者がいるらしく、手を合わせて頭を下げられたりした。        或いは、あたしが出現した山の頂を見て祈る人もいた。

 神様じゃないんだけどなあ。

 ただ、でも、人知を超えた力で緑を蘇らせることが出来るのは事実だった。

 


 ――土地守りがおらぬと、土地が荒れるのだ。


 声を思い出す。

 土地守り。

 そう言えば、緑たちに「緑青ろくしょうの土地守り」と言われた。

 緑を蘇らせる存在? それから?

 あたしは目前に広がる世界を見つめた。

 ここはどこだろう?

 

 日本のようでいて、日本ではない。植物が少しずつ違う気がする。動物も少しずつ違う。人も、日本人のようでいて、日本人ではない。最初は黒髪だと思っていたけれど、よく見ると濃紺だったり濃い緑色だったりした。水色に近い青や若草色のような緑の髪もあって、その色のグラデーションには個人差があり一様ではなかった。瞳の色もそうだ。青色と緑色を基調とした色で、その濃さには個人差があった。顔立ちは日本人に近いが、彫りが深い顔立ちの人もいる。服装も、平安時代の農民の服装のようでいて、少しずつ日本とは違う気もする。家々もそうだ。言語は――不思議なんだけど、頭に入ってきた。そして、実際日本語に似てもいた。

 ここはどういう世界なんだろう?


 ――よく分からない。

 よく分からないけれど、あたしの胸に、ここを守りたいという気持ちが強く芽生えているのを感じていた。

 霊体で、人々からは見えない存在。

 それでも、緑を蘇らせ世界を感じ取る力が、あたしにはあるように思った。


 あたしは集落を散歩することにした。

 皆、一生懸命に働いている。田畑を耕し、様々な日用品を作り、或いは機織りをして。

 あたしが集落を巡ることで、ふわっと空気が澄んでいくように思えた。もちろん、緑も増えてゆく。壊れかけた家を直すことも出来た。……嬉しい。


 あれ?

 ――泣いている子がいた。

 集落の外れの、ほとんど森との境目のところで、小さな男の子が泣いていた。

 その子はここでは珍しく黄金こがね色の髪をして、瞳も美しい黄金きん色をしていた。

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