第八話 現うつつ②
わたしは美咲さんと途中までいっしょに帰った。
今日集まったメンバーは五人。
湊が幼稚園だったころからの友だちの美咲さんと、小学校に入ってから出来た友だちとを合わせて、五人のグループだ。最近ではなかなかみんなで集まれることが出来なくなっていたので、今日は久々の集まりだった。
「じゃあまた、おしゃべりしようね」
「うん。またね!」
美咲さんと別れてひとりになる。
今日も空がきれい。白い月が、ほんの少し欠けて浮かんでいるのもいい。
葉桜の桜は、もうほとんど花びらを散らしていた。でも若葉がとてもきれいな緑色だ。さやさやと囁いてくる。
道路には桜の花びらが一面に散っていて、その、ほとんど白に近い薄いピンク色の散らばりは、アスファルトの黒い色を美しく彩っていた。そして、水仙の花やパンジーの花が家々を華やかにしていて、樹々に咲く花も豊かに誇らしそうにしていた。
きれいだな。
わたしは明るい気持ちで家に帰った。
湊が帰って来た気配がしたので「おかえり」と声をかける。湊は相変わらず黙ったまま部屋へ入って行った。
食卓に置いた一輪挿しの水仙がわたしに微笑んでくれた気がした。
うん、大丈夫。
すぐに彬が帰ってきて、三人で夕飯にする。
今日は彬も塾に行く。
彬と湊を見送って玄関から外に出た。「いってらっしゃい」と手を振る。
自転車に乗って出かけていく息子たち。
もう既に陽は傾いて、夜が迫ってきていた。
大変だな、と思う。
学校があって、部活もあって、さらに塾に行って。
「しゃべりたくもなくなるかな」
そうつぶやいて、家に入ろうとしたとき「ただいま」と柾くんが帰ってきた。
「柾くん、おかえり」
「ただいま、樹里ちゃん」
いっしょに家に入る。
結婚してすぐに彬が生まれて、その彬が十七歳になるから、つきあっていたときから考えると二十年以上いっしょにいる。なんだか、すごいなあ。柾くんは、ずっと変わらず優しい。
「ふふ」
「何?」
「幸せだなあって思って」
柾くんがわたしの頭を撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます