第二話 夢ゆめ②
「……土地守りがおらぬと、土地が荒れるのだ」
「荒れる?」
「そう。土地守りの存在は、その土地を豊かにし、恵みをもたらす。そうして、その地は発展してゆくのだ。お前が土地守りとして居るはずであったその地はもう限界に達している」
そこでいったん声は途切れ、何か考える気配がした。そして声は、ゆっくり考えるように言った。
「では、お前が今いるの世界で眠っている間だけ、その土地に行く、というのはどうだろう?」
「……どういうことでしょう?」
「お前の今いる世界と、本来あるべき世界では時間の流れが異なる。本来あるべき世界の方が、時間の流れが速い。だから、今いる世界で眠っている間だけでも土地守りとして、彼の地で存在してくれたら、土地の崩壊はせめて免れるであろう」
土地の崩壊⁉ なんて恐ろし気な言葉。
声は続けて言った。
「眠っている間、というのは、彼の地に行くのは霊体だけで、お前の身体は今いる世界で眠っている、というわけだ」
「なるほど」
「……お前、よく夢を見ていたであろう。土地守りの魂はその土地と結びついている。だから、その土地のことを夢によく見ていたのだ」
「……確かによく夢を見ていました」
小さいころから、いつもとてもリアルな夢を見ていた。ぼんやりとしか覚えていないけれど、とても美しい世界の夢で、俯瞰した視点のまるで映画を観ているかのような印象だった。
「では、明日からよろしくお願いする」
「え⁉ 断ることは出来ないのですか?」
「……困っておるのだ。頼む」
「――わたし、平凡に生きてきた、ただの主婦なんです……無理です」
「……土地守りとしての役割を果たせば、いまお前が生きている世界で恵みがもたらされるであろう。せめてもの償いとして」
「恵み?」
「ああ、幸運と言ってもいい」
「土地守りの仕事に応じてもたらされるであろう」
……それはそれでいいのかもしれない。……だけど。
「……あの、わたしにはやはり出来ません……」
「よろしく頼むぞ」
わたしの言葉をほとんど無視して、声は言う。
「眠っている間も働くなんて、わたしもう体力ありません。ほんとうに無理です」
「大丈夫だ。土地守りとして赴く際は、ふさわしい姿と精神になる。――若返るのだ」
「え? いや、――そういうことではなくて」
「もう時間がないようだ。目覚めが近い。――頼んだぞ」
「え? あの――ちょっ……」
声は遠ざかってゆく。
白い空間はぼやけてゆく。
そして、暗転。
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