第五話 夢ゆめ①
あたしは気づいたら、ここにいた。
ゆっくりと起き上がる。
――あたし?
あたしは自分の手を見た――若い。脚も。細くてすべすべしている。顔を触る。
髪。
髪が長い。しかもさらさらしている。
神社の本殿のような場所の中に、あたしはいた。
奥の方に鏡のようなものがあった。ひどく映りが悪い。
鏡の中にいたのは、十代のころのあたしだった。中学生か、せいぜい高校生くらい。髪は黒く長くまっすぐで艶やかで、胸の辺りまであった。全体的にほっそりとしていて、そしてしなやかだった。
あたしは着物を着ていた。若草色に白い小花を散らした着物で、帯は鮮やかな黄色だ。
……夢?
いつもあたしは夢を見ていた。
でも、こんなにリアルな夢は初めてだった。
建物から外に出る。
……ああ。
識っている。
この、世界を。
美しい自然。連なる山々。透明な水を湛えた湖。飛び交う鳥たち。咲き乱れる花々。豊かな樹々――
そうだ。
何度も夢に見ていた、この世界を。
どうして忘れていられたのだろう? 懐かしくも思える、この世界を。
あたしは山の頂上にいた。
なんて、美しい。
息を思いきり吸う――ふわりと宙に浮く。出来るような気がした。
あたしは空中散歩を楽しんだ。
すごい、夢って何でも出来るんだ! ……夢にしてはリアルだけど。そしてそして、何かひっかかるんだけど。
俯瞰して景色を見る。
――あれ? 目の端に茶色いものが見えた。
あたしがいた山の周りは美しい緑が広がっているけれど、少し向こうに行くと、緑が枯れて茶色になっていた。むしろ、あたしがいた山だけが美しい緑で、その緑を中心に同心円状に茶色く枯れた樹木が広がっていて、遠方に行くほどその枯れ方はひどくなっていっていた。
胸がぎゅっと鷲掴みにされたような痛み。
あたしは枯れている方に飛んで行った。
そして、その地に降り立ち、祈る。
すると、足元から緑が蘇っていく。
下草が生え、樹木が蘇り青々とした葉を湛え、花々も咲き乱れた。動物の声や鳥の声も聞こえてくる。
よかった……!
太陽の光を受け、緑が輝く。
――土地守りがおらぬと、土地が荒れるのだ。
――土地守りの存在は、その土地を豊かにし、恵みをもたらす。
――お前が土地守りとして居るはずであったその地はもう限界に達している。
ふいに声が蘇った。
あれ?
あれは夢じゃ、なかったんだろうか? これは夢の続き?
――眠っている間だけでも土地守りとして存在してくれたら、土地の崩壊はせめて免れるであろう。
――かの地に行くのは霊体だけで、お前の身体は今いる世界で眠っている。
――土地守りとして赴く際は、ふさわしい姿と精神になる。若返るのだ。
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