第4話 鬼のきゃらばん


 島渡りが終わり、大陸の端に辿り着く。見渡す限りの地平線。次々と無知性竜種が舞い降りる。他の鬼族たちだ。

「よぉ、姫さんが一番乗りか」

 大きい、鬼族の男はとにかく巨躯だ。自分の二倍以上ある。

「応、これでも俺は次期だからな」

「はっはっはっ敵わんねこりゃ」

「童子?」

「知らんのか奴隷の小僧、七天蓋だよ、七天蓋。鬼の七天蓋」

 クレナイが次期七天蓋。確かに巨竜をも圧倒する魔法を持つ彼女ならば納得も出来る。

「今の鬼は誰が七天蓋なんだ?」

「ん? ああ……流涙童子様の事か」

「リュウルイ」

「様な」

 叱られた。しかし、その男鬼は機嫌が良いらしく、それ以上は詰め寄ってはこない。もしかするとクレナイが怖いのかもしれない。自分より強い者など畏怖するしかないだろう。これは巨竜と対峙した時に得た僕の学びだった。

「そのリュウルイ童子……様がもし死んだら、クレナイが童子になるのか」

 と男ではなくクレナイに問う。すると彼女は何の気なしに。

「そうさね」

 と答えた。

 なんとも呆気ない。

 さらに後続の鬼族たちが無知性竜種と共に舞い降りる。

「トドロキ、そこにいると邪魔じゃないのか?」

「おっといけねぇ、姫様もさっさと竜を放しちまいな」

「ああ」

 さっきから話しをしている男の鬼族はトドロキというらしい。そこで僕は一つ疑問を呈する。

「どうしてトドロキ……様はクレナイ……様の事を姫様って呼ぶんだ? 次期七天蓋だからか?」

「それもあるが、生まれが生まれだからな」

「生まれ?」

「おいトドロキ!」

「まあいいじゃないですか姫様、鬼ってのは混血は珍しくない。というか鬼族の始祖は神話の時代にありとあらゆる血族を混ぜた果てに生まれたと言われている。エルフや竜種のような純血主義でもない。そして姫様は貴重な精霊種との混血だからな」

 精霊種、存在そのものが七天蓋とされる者。パラドキシカルとも言うそれはこの世に一体しか存在しなかったはずだ。それとの混血。

「とんだ淫乱精霊だよ。ウチの母親を勝手に孕ませといて自分は知らん顔で逃げやがった」

「まあまあ、おかげでこんなに強くなったんだからいいじゃないか。いいか奴隷の小僧、鬼族ってのは実力主義だ。強いもんが上に立つ」

 それは前にもクレナイに聞かされた事だった。つまり今クレナイは上に立っているということなのだろうか。しかしそれよりも僕はという部分が気になった。

「なあ、あの夜、クレナイ……様が消えそうに見えたのって見間違いじゃなくて」

 精霊種の存在が消えかかってるせいなのではないか? と。前に先生から聞かされた事があった。矛神と盾神は今この世界にはおらず、その二柱の間に生まれた精霊種はその存在を保てなくなっているのだと。しかしクレナイは人差し指で僕の口を塞いだ。

「その話はまた今度だ、ライカ」

「……はぁ」

 これ以上、拘泥しても聞かせてくれそうにはなかった。僕は切り替えて。

「こっから先、どうするんだ? 馬は置いて来ちゃったし無知性竜種も放しちゃったし、足が無いぞ?」

「まあ見てな、ランドライナーが来る」

「らんどらいなー?」

 すると砂煙が地平線の向こうに現れた。それはどんどんとこちらへと近づいてくる。

「なんだあれ!? 砂嵐か!?」

「おいおい、本当に大丈夫かこの奴隷? 姫様のお墨付きとはいえ」

「ちょっと島暮らしで常識知らずなだけだ。魔力は十分。それだけあれば後はしつけりゃいい」

「そういうもんかね」

 トドロキとクレナイがなんだか失礼な話をしているが、こっちとしては未知の恐怖が迫っている事に怯えるしかない。

「ま、まさかランドライナーってあれのことか?! アレに乗ろうってのか!?」

「如何にも。目を凝らしてよく見てみろ」

 僕は言われた通りにする。そうすると見えたのは地を土煙を上げながら走る巨大な鳥だった

「鳥が走ってる……?」

「応、大陸の鳥は走るしデカい」

「あれに、乗る?」

「そうだ! 飛び乗れ野郎共!!」

 鬼族たちがクレナイの号令を機に一斉に跳躍した。クレナイもそうして飛び上がる。すると、鎖で繋がった僕も浮くわけで。

「ぐえっ」

 二度目の首吊り体験をするハメになるのだった。

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矛盾世界のパラドックス 亜未田久志 @abky-6102

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