100番目の願い

尾八原ジュージ

早春

君に付き合ってほしいと頼んだら

「百個の願いを叶えてくれたらね」

というからぼくはあとさき考えず

それでいいと請け負ってしまった

初めての願い事は「手を繋いでよ」

次は「一緒にこの映画を観たいな」

次は「ここのカフェで食事したい」

ちっぽけなお願いばかり重なって

二十五番目が「いっしょに住んで」

三十二番目が「婚姻届出してきて」

生活は続いて年月は過ぎていって

五十五番目は「早く病院に行って」

五十八番目は「医者の話を聞いて」

六十二番目は「早く治しなさいよ」

六十三番目も「早く治しなさいよ」

六十四番目も「早く治しなさいよ」

六十五番目も「早く治しなさいよ」

「私より長生きしなさいよ」って

泣かせてしまったのが八十一番目

君の願いを何個もすっぽかしたと

病院のベッドの上で謝ったぼくに

「謝らないで」で九十番目だった

少しだけ穏やかな日々が続くなか

八十一番目は叶えられないと知る

ぼくの元にとうとう百番目が来る

「手を繋いで」って一番目と同じ

他愛もない小さなお願いを、君が

ずいぶん約束を破ったぼくなのに

まるきり昔みたいな笑顔で言って

わざわざ願いを叶えさせてくれる

絵本の一ページみたいな早春の日

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100番目の願い 尾八原ジュージ @zi-yon

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