帰りてぇよ。
吉田を連れて行くのはグランプ、じゃなくてデュープ教会。栄養失調だけなら俺達でどうにか出来る可能性もあるが、他にも合併症などがあったら手に負えないから。
アルマ教会でも良かったのだけど、俺は向こうと微妙に折り合いが悪いので仕方ない。多分あっちの方が規模も設備も人材も豊富だとは思うけど、海竜の肉を捧げなかった事を根に持たれて吉田に何かされたら困る。
何が困るって、俺がブチ切れてアルマ教信者を皆殺しにしてしまう事だ。
デュープ教会に駆け込むと、ヘレンさんが居たので事情を説明する。
「では、
回復系の魔法を持ってるらしいヘレンさんによると、幸いながら吉田は今のところ飢餓以外に悪いところは無いらしい。
「これなら、滋養に富んだ
「あ、それは迷宮都市で大量に買ってあるので大丈夫です」
弱りきった胃腸にスープと
ただ、体の全体が弱ってるので流石に即日完治とはいかない。
一日目。
二日目。まだ体力が衰えたままだが、摂取した栄養で体が回復しようと動き始めた。ヘレンさんのスキルも使って更に体調を整えていく。まだお粥くらいしか食べれない。
三日目。ヘレンさんの回復スキルと大量に使った
四日目。スキルを使いっぱなしのヘレンさんが弱って来たが、スナミナ
そして五日目。
「…………なんか、迷惑かけたなぁ」
「バカなこと言ってんなよ。死にかけの友人を助けて迷惑に感じるほど、俺はまだ腐ってないぞ」
まだ頬がこけて、痛々しい様子でベッドから身を起こす吉田。だが内臓は殆ど回復しきってるらしいので、あとは大量に栄養とカロリーを摂取して養生するだけ。
それまでの食事はデュープ教会が用意してくれてたけど、今日からは俺も食事を出す。だって、吉田は日本人だ。日本人には日本食が必要なのだ。
「そんな事より、今日はとびっきりの飯を持ってきたから食え。はち切れるまで食ってさっさと肉付けろ」
俺が取り出したのは、うな重。滋養とカロリーと言えばこれだろう。さっさと精をつけて元気になって欲しい。
「…………………………こ、米?」
「そう、米だ。そして、うなぎだ。味は保証するし、お代わりも自由だ」
迷宮鰻の蒲焼きと、それが乗せられた米。吉田はうなぎが嫌いじゃなかったはず。ならこの飯は喜ぶだろ。
「うな、じゅう……?」
「そうだぞ。俺達のソウルフードだ」
少なくとも俺に取ってはソウルフードだ。
ゆっくりと手を伸ばした吉田は、しっかりとお重を掴んで箸を持った。それから怯えるように箸を伸ばし、ふっくらと焼き上げたうなぎを押し切って口に運ぶ。
「…………………………うなぎだぁ」
吉田は泣いた。その涙にどれほどの気持ちが込められてるのかを俺は知らないが、あんな姿で死にかけていたんだ。筆舌に尽くし難い経験だったに違いない。
一口食べるごとに箸の進みは早くなり、最後はガツガツと喉に流し込むようにうな重を掻き込む吉田。
大量に用意したうな重も三杯目に差し掛かったところで、口からもごもごと米粒を零した吉田は大粒の涙を零しながら言葉を絞り出した。
「
うな重のせいで郷愁が刺激されたのか、吉田はみっともなく泣き始めた。
俺にその気持ちを共感してやることは出来ない。だけど、無様に泣き喚く友人を笑う事はないし、誰にも笑わせない。もし笑うやつが居たとしたら、きっと翌日の朝には海に浮かんで冷たくなってる事だろう。
「帰りてぇよぅ…………! 俺が、何したって言うんだよぉおおっ!」
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