言い訳出来ない。



「…………かみさま」


 港の隅っこで、匂いに釣られて来たストリートチルドレンに唐揚げを食わせてやった俺は、なぜだか神様扱いを受ける事になった。


「だから、俺は神様じゃないぞ」


「……でも、かみさま」


 皮脂とフケと泥にまみれた汚い黒髪に、薄汚れた皮膚とズタボロの服を着た少年は、随分と頑固者らしい。どうしても俺を神と呼びたいようだ。


「よぉし分かった。じゃあ神様で良いから、せめて呼び方を変えてくれ。俺の名前はカイトだ」


「かいと、にぃに?」


 きゅんとした。まさか、小さい男の子に「にぃに」と呼ばれてここまで胸が締め付けられるとは思わなかった。これが、母性……?


「…………!? お、男にカイトを取られるっ!?」


「ポポロップさん、なんで私には焦らなかったのに男の子を相手に焦るんです? 遠回しにバカにしてるです?」


 俺はショタでもホモでも無い。ただちょっと弟が居たらこんな感じかなって思っただけだ。一人っ子だったから。


 両親なんて一欠片も愛し合って無かったし、多分だけど俺の事も義務とか世間体とかで産んだんだろうな。必要だから作っただけで、二人目とか冗談じゃないって感じで。なので兄弟には少し憧れてる面もある。


「そう言えば名前も聞いてないな。教えてくれるか?」


「…………きと」


「キトくんか。可愛い名前だな」


「きと、かわい……?」


 俺の弟可愛いな。…………いや待て弟じゃないまだ弟じゃない。耐性が無さすぎてノーガードだった危ねぇ。


 見た目は完全に汚らしい汚物1歩手前みたいな姿だが、生来の純朴な性質を隠せてない。初めて会った時のポロと良い勝負してるボサボサのモンスターヘアーの内部から庇護欲を唆る電波が滲み出てる。


 取り敢えず、見た目がヤバいので綺麗にしようかと思ったらアオミが突然動いて、ぬばぁ〜っと広がり獲物を捕食するスライムみたいな挙動でキトを飲み込む。


 ……………………アオミさんッ!?


 しかし悲鳴をあげる間もなく、アオミは一瞬でキトを解放した。突然食べられて突然吐き出されたキトは目を丸くして驚き、次いで自分の体に起きた変化に戸惑う。もちろん俺も戸惑ってる。


 なんか、一瞬でキトが綺麗になったんだけど。


 皮脂とフケと泥に汚れたグシャグシャの髪は見違えるほどツヤツヤのサラサラ。顔や手足に見える汚れも消え去ってぷに艶の玉肌。汚し過ぎて捨てられたカーテンをリメイクしたが如きボロ布の服も純白のワンピースになっていて、全部綺麗になったキトを改めて見ればお目々がクリックリで愛らしい。いっそ女の子みたいだ。


 アオミさん!? こんな能力持ってたの!?


 なんか、薄汚ぇ孤児が、突然ちまぷに激カワのショタっ子に進化したんだけど。アオミ先輩はショタっ子のブリーダーか何かです?


「きゃわわですぅ〜!」


「くっ…………!? 思わぬ、伏兵!」


 いやポロさん、俺はショタコンじゃないから。小さな男の子に興奮するヤベー奴じゃ無いから。そもそも俺はノーマル………………?


 いやポロを嫁にしてる時点でノーマルって言い訳は無理か? 今の俺ってどこからどう見ても完全無欠のロリコンだよな。もしかしてそう思われてる?


 俺は自分の周囲を見た。ロリの嫁。ロリ巨乳の仲間。そしてワンチャン、ロリにすら見えるくらい可愛らしいショタっ子。


 ……………………あれ、もしかして言い訳出来ない? 詰んだ?


 ルリも「新入りっすか!? 後輩っすか!?」とキラキラのお目々で俺を見る。だがルリよ、正式な加入はルリよりもエルンの方が後だから、君の後輩はエルンだぞ。既に後輩居るぞ。


「まぁ良いや。それよりキト、行くところが無いなら俺達と来るか? キト一人くらいならグランプにも乗れるし────」


「ひ、ひとりちがうっ…………」


 ここで別れるか、一緒に来るかを問えばキトが慌てて俺の裾をきゅっと握る。いちいち仕草が可愛いのはなんなんだ。これが男の娘ってやつか?


 この世界で子供が貫頭衣を着るのは不自然じゃ無いけど、日本に居た俺からするとワンピース着てる可愛いちびっ子って時点でロリに見えるんだよな。


「仲間が居るのか?」


「にぃに、よしをたすけて……」


 今まで、誰かを頼った事が無いのだろう。本当に頼んで良いのかも分からず、混乱しながら涙をポロポロと零して懇願するキトは必死に見える。


「そのヨシって言うのがキトの仲間なのか?」


「うんっ……」


 聞けば、ヨシと呼ばれた孤児仲間は本来仲間と呼べる程の距離感では無いらしい。でもキトがスラムで熱を出した時には、代わりに食料を見付けて来てくれたりした恩人らしい。


 最近、そのヨシが病気で倒れて死にかけてると言う。スラムで人が死ぬのは仕方ないが、それでも食べる物くらいは何とかしたくて、キトは今日も残飯漁りをしていたそうだ。


 その途中、港から漂う焼き魚の匂いに釣られて来ちゃったと。


 話を聞くとどうも、そのヨシってのは俺とそう変わらない年齢っぽい。


「ん、じゃあ助けに行くか。流石に二人を保護するのは無理だけど、仕事くらいは斡旋出来るし。…………ポロ、まずキトに服を買ってあげてくれるか? ビバホなら服もあったはずだ」


「ん、了解した。漁師小屋を少し、借りてくる」


 ポロは何故かエルンも引き連れて、キトの手を引いて歩き去った。漁師小屋を更衣室代わりにするんだろう。


 残った俺は後片付けをして待つ。


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