塩焼きと見せかけて。
「はい、完成。タイの刺身とカレイ、ハタの塩焼き」
完成した料理とご飯が詰まったメスティンをテーブルに並べて、準備は終わった。ハタは塩焼きって言うか香草焼きになってるから宣言は少し詐欺だけど、まぁ良いだろ。
ちなみに、釣った魚が食べれるのかは既にその辺の漁師に確認済みだ。あと魚の正式名称も聞いたけど長くて覚えにくかったからタイ、カレイ、ハタで良い。
「ふふ、カイトがわざわざ美味しいと言ったカレイの塩焼き。そのちから、見せてもらう」
「美味しそうですぅ!」
全員がニッコニコで食べ始める中、俺もさっそくとカレイの塩焼きに箸を突っ込んだ。背中側に箸を入れるとスっと通り、簡単に身がほろほろと崩れる。それをそのままつまんで口に運べば、上品な脂を纏った肉が舌の上を転がっていく。
美味い。間違いなく美味い。
だが、これで完成じゃない。
俺はおもむろにスプーンを取り出して、カレイの身をこそぎ落とす。せっかく頭付きで焼いてるのに台無しな行動ではあるのだが、仕方ないのだ。
「……カイト、なにしてる?」
「まぁ見てろって」
俺の奇行に気付いたポロが首を傾げるが、俺は気にせず作業を続ける。
こそぎ落としたカレイの身を今度はスプーンでご飯の上に乗せていく。身離れが良くて崩れやすい柔らかいカレイの身は、それだけでフレーク状になってしまう。
「ここに、薬味と醤油を少々」
最後に、俺は用意していたごま油と刻みネギを和えた物を上に散らし、その後で醤油を回しかけて、ダメ押しで卵黄を乗せたら完成。
「カレイの塩焼きそぼろ丼、完成だ」
「ちょっと待って欲しい。カイト、そう言うのは先に言うべき」
俺はポロにすまねぇすまねぇと言いながら、そのままスプーンをメスティンに突っ込んでご飯と魚をかき込んだ。
ああ美味い。もう余計な食レポとか要らん。
「そしてこの塩焼きカレイのそぼろ丼を片手に、ハタの香草焼きとタイの刺身を頂くのさっ!」
「か、カイトがいつになく本気で食べてる……」
「美味しそうだから真似するですぅ」
多めに作っといた薬味と卵を俺から強奪する二人を
続いてマキシマムで香草焼きにしたハタっぽいやつ。背中の方を解して皮ごと口へ運ぶ。
「……………………あぁあぁ、こいつハタじゃねぇクエだうめぇぇえっ」
なんで子供とは言えクエが数釣れてんだよってツッコミどころはあるのだが、味はクエだった。ハタと間違えてごめんよキミは絶対クエだ。
確かにクエはスズキ目ハタ科の魚なのでハタっぽく見える。チャイロマルハタって魚と似てて見分けるの難しかったりするんだけど、味は全然違う。
目玉商品だったカレイのそぼろ丼が一気に影薄くなった。それくらいクエの味が凄い。刺身で食った方が良かったか? いや、でも俺塩焼きも普通に好きだしな。
「クエ、クエかぁ…………」
クエ。漢字で書くと
もちろんキロ単価なんて水物なので毎年の水揚げ次第で変わってしまうのだが、常識的な相場で比べるならクロマグロはキロ単価か大体三千円から五千円が相場だ。そしてクエのキロ単価は一万円を超える。つまり四キロの魚を釣り上げたら四万円って事だね。恐ろしい値段だね。
値段が高けりゃ美味いって訳じゃないが、…………いや高けりゃ美味いのは間違いないが、値段に味が比例するわけではない。だが、クエに関しては安心して良い。味と値段がちゃんと比例するタイプの魚だから。
と言うか、むしろ味が足りなかったら高値なんて付かないんだよな。珍しいだけの魚に高値を付けても誰が買うんだよって話だから。その値段でも売れるってことは、つまりその値段に納得出来るだけのクオリティなのだ。その値段と見合ってるかは置いといて、美味しいのは間違いない。
そしてクエは希少性と味がちゃんと比例する。クエを食べて不味いと言う人はよっぽど変なクエを釣ってしまった人か、もしくは釣る季節と調理法を間違えた人だ。
クエの旬は諸説あるが、「美味しく食べれる季節」を旬と呼ぶならクエに旬など無い。一年を通してずっと美味しく食べれる魚だ。ただ季節によって最適な料理方法が変わるだけで。
クエは死ぬほど脂が乗ってる魚なので、それがくどくて嫌って人はむしろ脂が乗ってない時期のクエを見合った調理で食べる方が美味しく感じる。そもそも脂が乗ってなくても強い旨味が担保されてる魚なので、扱いさえ間違わなければ当たり前に美味い。
「これは、そぼろ丼を主食にしてクエをメイン惣菜、タイの刺身を副菜くらいで食べるのが正解か?」
悩ましい。実に悩ましい。タイもカレイもしっかり高級魚なはずなのに! と言うか成魚サイズじゃない癖に死ぬほど美味いクエがおかしいのか? 幼魚のクエはさすがに食ったことが無いから分からないんだよな。誰か俺に教えてくれ。
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