意外と美味しい調理法。
お昼まで釣りをした俺たちは一度、港へと帰って食事の準備を始める。もちろん邪魔にならない場所を選んで設営だ。せっかくなので、使う魚はエルンが釣った魚にしよう。
「ワクワクです!」
エルンが今日釣った魚は、ハタっぽいのが五匹とカレイが四、そしてタイっぽい魚が二だ。結構連れてるのよね。
「ポロは米炊いてくれるか? その間に仕込むから」
「ん、分かった。でも、何作る? お刺身? カレイっぽいのは、確か煮付けが美味しい?」
動画で学んだらしい知識を披露するポロは、ガシラの煮付けが大好物なのでカレイも期待してるんだろう。しかし、ごめんなポロ。
「悪いけど、カレイは煮付けに使わないよ。時間掛かるからな」
「…………そうだった」
そう、当たり前だけど煮付けは時間がかかる。今から米を炊いてササッと飯にしようってタイミングで作るには些か相応しくない料理だろう。
「じゃぁ刺身?」
カレイの食べ方としては、確かに煮付けか刺身が一般的だろう。実際にその二つはまず間違いない美味しさなのだし。
「実はな、カレイはもう一つ美味しい食べ方があるんだよ。…………それはな、塩焼きだ」
そう、実はカレイって塩焼きでも相当美味い。火を入れたカレイの身は崩れやすくなるのだが、それは逆に言うと簡単に身が崩れてしまうほどに柔らかく、身離れが良いって事である。だから良く脂が乗ったカレイはシンプルに塩で焼くと相当クオリティの高い一品に化けるのだ。
ちなみに、良く脂が乗ってるならヒラメでも似たような事は出来る。カレイとヒラメは見た目が似てるだけあって味も似てるが、カレイの方が脂の乗りが良く、ヒラメは引き締まった身に上品な旨みが宿ってる。
つまり脂が美味いか身が美味いかって話なのだが、良く脂が乗ったヒラメと身が引き締まってるカレイだったらもう、味に見分けがつかなくなるレベルで似てる。それでもプロなら分かるんだろうけど、俺には無理だ。捌く前なら見た目で分かるけど。
そんなわけで、カレイは塩焼きにする。あとハタも塩焼きかな? こっちはマキシマムなスパイスで焼こうか。そしてタイは刺身にする。
エントリーの気候も、ダンジョンに言ってる間にだいぶ寒くなってる。このタイっぽい魚がちゃんとタイなら、脂が乗り始める時期だし多分美味しいだろ。
「…………あ、そうだポロ。もし余裕があるなら、マシタの冷蔵庫────」
「ピー?」
「あ、いえなんでもないっす」
俺とポロが釣った分は保存しようと思って声を掛けたら、ピーちゃんさんが「おうワレェ、覚悟できてんやろなぁ?」って顔で見て来たから提案するのを止めた。
本当は、魚を保存するならインベントリより冷蔵庫の方が良いんだけど、今日まではなんだかんだインベントリを使って取れたての鮮魚を食べてきた。だからポロの新スキルで冷蔵庫を確保して欲しかったんだけど、ピーちゃんに仕事を奪うなって殺気を飛ばされてしまった。
魚は釣れたてが一番美味しい。そう言う人は多いのだけど、科学的に言うと実は釣れたてが一番美味しくない状態なのだ。何故かと言うと、新鮮であればあるほど肉がタンパク質のままだから。旨味とはタンパク質が分解されてアミノ酸になった後のもの。
腐りかけが一番美味い。この言葉もよく聞くけど、こっちは混じりっけなしの真実。なぜなら腐りかけって事はタンパク質が分解されまくって
まぁ良いか。ピーちゃんがやるって言ってるんだし、冷蔵庫役はピーちゃんに頼もう。適切に処理した魚を冷蔵環境で二日ほどすれば良い感じに熟成するだろ。
手早く魚の
「ピーちゃん、これ冷蔵お願い。良いか? 冷凍じゃなくて冷蔵な?」
「ピー?」
「面倒くさがるのは良いけど、適当やって味が落ちたらポロも怒るぞ。自分が釣った魚を台無しにされるんだから」
「ピッ!? ピ、ピー!」
「分かったから。言わないから、ちゃんとやってくれよ? 温度的には五度くらいかな? 適当な箱使って良いから」
「ピ!」
赤バスの熟成をピーちゃんに頼んだら、あとはカレイとハタを頭付きのまま切れ目を入れて塩を振り、アルミホイルに包んで火にかけた。その間にタイを捌いて刺身の用意だ。
「ご飯炊けた」
「炊けたですぅ!」
「おう、じゃぁ後は蒸らしてる間に刺身作っちゃうから、待っててくれ」
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