舎弟と魚探。
「あにぃ! 帰ってらしたんでっ!?」
「あーあー、うるせぇのに捕まった」
用事も終わったので再び港へ行くと、今度は舎弟たちに捕まった。相変わらずあにぃあにぃと不快な鳴き声で囀りやがる。
「どけどけ、時間使っちゃったから早く釣りに行きてぇんだ」
「そんな、お供しやすよ!」
「邪魔だ来んな」
一人に捕まるとなんだなんだと集まってきて動けなくなる。しかも知らぬ間に舎弟が増えてやがるのなんでなの。最初は八人だったのに、今では何故か二十人くらいの若手があにぃあにぃと鳴きやがる。
「カイトさん、この方々は誰なんです?」
「非公認の舎弟」
小首を傾げるエルンに一言で端的に説明した。俺は誰一人として公認してないからな。
「……おっふ、あにぃが女を増やしてる」
「激マブじゃねぇの……」
「おっぱいでっけぇ……!」
「…………し、視線がいやらしいですぅ」
そしてパークラのオーラを遺憾無く発揮したエルンに色めき立つ舎弟たち。その視線を受けてエルンは俺の背後に隠れてしまった。その仕草も男の何かを刺激するのだろうか、舎弟たちは更に盛り上がった。まぁエルンが可愛いのは認める。
「お前ら、エルンに失礼なこと言うとヤベーぞ? こいつ、身体能力なら俺達よりよっぽど強いからな」
「え、マジですかい!?」
そう。実はエルンのステータスって俺とポロよりも高いのだ。高名だった両親から有り余る資金力でステータスアップされ、その後も一人で細々と探索を続けて伸ばしたそれは、実に二十を超える。現在ステータスがオール十五の俺達と比べても中々の差だ。
「バルジャーレで現役だった凄腕の
「膂力が二十五もある。実質ゴリラ」
「ご、ゴリラがなにか分からないですけど、バカにされてるのは分かったです!」
ステータスを一つ二十以上にするだけで経験値が五十万も必要になることを思えば、どれだけの事なのか分かるだろう。そして両親がどれだけエルンを愛してたか分かるだろう。子供にそれだけの経験値を安全に稼がせる為に、どれだけの金を使ったのやら。
性格的に反撃出来るか否かは置いといても、膂力だけでもそれだけの物があるならば暴漢にも反撃しやすい。その辺のチンピラに組み伏せられて悲惨な目に遭うことはないだろう。
「し、失礼しやした乳姐さん」
「舐めた口きいてすいやせんでした乳姐さん!」
「誰が乳姐さんですっ!?」
仕方ないと思う。だって凄いもん。ポロと並ぶと更に対照的だ。
さて、現状を知ったチンピラ、もとい舎弟たちは素直にビビり散らして道を空けてくれた。俺たちはそのまま桟橋へと向かう。
俺とバハムートの戦いでぶっ壊された桟橋もしっかりと直され、今では新品のピッカピカだ。フジツボの一つすらついてない。
そこで俺たちはそれぞれ船を出し、エルンにも専用のビッグを出してあげた。エンジンの使い方もダンジョンで教えてるので、あと教えるのはガソリンの入れ方くらいか。エルンの物は神器化してないからな。
エルン用のボートを買って海に浮かべ、エンジンをセットし、ガソリンを入れてコックを開け、キャブレターに燃料が入ったらリコイルスターターを引かせて始動させる。点火が上手くいかない時は、チョークを引いて混合気を変更して無理やり始動する。
「これで動かし方は分かったか?」
「はいです!」
「じゃぁ行くか。三人で小型ボートのツーリングとしゃれこもう」
俺達は付かず離れずの距離を維持しながら海に出る。ともあれ、エルンはまだまだ初心者なので、エントリーの港にある魔物避けが効いてる範囲内でエンジンを止める。じゃないとチビドラや赤バスなんかがヒットすると大変な事になるから。
魔物避けが無い場所でも魔物じゃない魚だってちゃんと居るらしいのだけど、手っ取り早くアロが釣りたいならやっぱりここだよな。
幸い、生前のバハムートを釣った時に魔物避けの範囲は分かってるので、常に範囲内へエルンを置いておくようなギリギリの場所を決めてアンカーを下ろした。俺はチビドラとかも釣りたいから魔物避けの外に居るけど。
「声の届く範囲には居るから、なんかあったら呼べよ」
「ポロでも良い」
「わかったです! すぐ呼ぶです! というか今来てほしいです!」
仕方ないのでアンカーを引き上げてすぐに近くまで行った。なんだよ。
「私、ルアーってよく分からないので餌釣りが良いです! ウナギ釣ってた時みたいに!」
俺とポロはタイラバ投げる気だったけど、エルンは餌釣りが良いと。まぁ釣りたい方法で釣るのが一番だ。タイラバを強制する事もないだろ。
「わかった。じゃぁ仕掛け変えてやるから竿先こっちよこせ」
さて。エルンは餌釣りが良いと言うが、一口に餌釣りと言ってもその裾野は広い。単純なぶっ込みや天秤仕掛けから始まって、コマセやサビキ、胴付き、泳がせ等々、本当に色々ある。
そして餌釣りの利点でもあり悪い所でもあるんだが、その場に魚がいる事が前提である事が多い。撒き餌なんかで魚を寄せるのも有りだが、あれだって限界はあるのだ。
「…………あぁ、そうか。そういや俺は使わなくても魔法でどうにでもなったけど、普通は魚探が要るか」
「……ぎょたん、です?」
そう、魚探。つまり魚群探知機だ。船釣りでは殆ど必須装備とすら言われる神アイテムだ。確実にこの世界ではまだ生まれてないだろう。
「ポロー! ちょっとこっちこーい! 良い機会だからお前も魚探の使い方覚えろ!」
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