さよならバルジャーレ。



 打ち上げの翌日。


「あ、改めてよろしくお願いしますです!」


 朝日が差し込む都市の正門前。びしぃっと気を付けの体制で挨拶するのは、またもや大きなバックパックを背負ったエルンだった。


 収納系スキルに荷物を詰め込み、容量が足りない物はバックパックに詰め込んで来たらしい。もう中も外もパンパンだ。


 ルリが嬉しそうに駆け寄り、エルンの足元をくるくる回る。珍しく指示も無く姿を見せた海竜達がエルンの頭をポンっと抑えてまた消えていく。


 ダンジョンの中で結構長く一緒に居たため、精霊達からも受け入れられてる様子だ。


「こちらこそ、改めてよろしくな」


「はいです! ポポロップさんからカイトさん略奪するつもりでガンガンいくです!」


「ふっ、負け確なのにご苦労さま。ポロは受けて立つ」


「負けないです!」


 割りと刃傷沙汰な内容なのに和気藹々と挨拶し合うエルンとポロ。エルンがどこまで本気か分からないが、二人の友好にヒビが入らないなら好きにすれば良いと思う。


「それに、ずっと一緒に居たらカイトさんもきっと絆されるです! やってやるですよー!」


 いやごめん、それは無い。


 ハーレム物語みたいに、なんだかんだ絆されてってパターンは絶対に無いんだよ。俺は両親を見て育ってるから、たとえポロが第二夫人や愛人の存在を公認したとしても、俺は嫌なのだ。断固拒否する。


 もう心が拒絶してるのだ。その先に幸せは無いと本能に刻まれてる。だからポロが「エルンも嫁」にしろと言ってきても、申し訳ないが断る。仮に三人で幸せな未来を築けるのだとしても、俺の心が耐えられない。


 いつ崩壊するのか。あの地獄はいつ生まれるのか。いつか出来るだろう俺達の子供が、そんな地獄を見て育つのか。そう考えたら吐き気がする。


 だけどまぁ、つるぺたロリとロリ巨乳が並んでる絵面は中々いいものだ。エルンが辛くないと言うなら、それで良いか。


 それに、エルン絶対モテるだろうから、その内俺の事なんて忘れるだろ。バルジャーレでもパークラだった訳だしな。


「さて、準備が良いなら乗り込んでくれ。今日の運転は、…………どうしようかな」


「ラギアスで良い」


 グランプの外付けハンドルを握った状態で半実体化したラギアスは、既に準備万端らしい。あとは俺達が乗り込むだけだ。


「待ち給え、無撃必殺」


「だからその名前で呼ぶなぁぁぁぁぁあッ!?」


 出発しようとグランプのタラップに足をかけた瞬間、突然背後から黒歴史で刺してくる奴がいた。ネイドである。


 背中の痒さに耐えながら振り返れば、なんとまぁ庶民的な服を着たイケメンがそこに居た。


「いくらなんでも水臭いぞ。敵対してたとはいえ、挨拶の一つくらいあっても良いだろう?」


「いや、俺とあんたってそんな関係じゃなくね?」


「同じ女神を愛した仲間だろう」


「知らぬ間に天使が女神にランクアップしてやがる……」


 何故かあの一件依頼、ネイドは俺を気に入っていた。まぁ俺も嫌いじゃないんだけどさ。


 ネイドはあれから、栄光の白旗はっきから一時的に脱退してた。というのも、彼なりのケジメらしい。


 パーティメンバーとしては堪ったものじゃないんだろうけど、俺達としてもネイドが保有する莫大な数の装備品とか持って帰る気がないので、どうしても売り払う事になる。それを栄光の白旗が買い取ってネイドに渡すと、決闘の結果が有耶無耶になってしまうと考えたらしい。


 だから、装備を買い戻すとしても自分の力で。それまではパーティに戻らず、支援も受けないと自分で決めたそうだ。


 まぁパーティも遠征から帰ってきたばっかりなので、暫くは休暇だろう。その間にある程度戻せれば、またパーティを組めるだろう。


 そも、売り払った物を全て買い戻す必要も無いんだ。ダンジョンに潜る時に必要な装備だけ買い戻したら良い。コレクションとか予備に取っといた装備品なんかは後回しで問題無い。


「無撃必────」


「だからその名前止めろ。渡した絵を回収するぞ」


「むう、カイトよ」


 なんだって二つ名なんか出回るんだよ。と言うかポロはなぜ教えたのか。そういやまだポロから聞いてないぞ。


「確か、拠点ホームはエントリーだったか?」


「そうそう。まぁ、まだ拠点って言える住処すみかも無いけどな。ここでバカ稼ぎしたから、多分帰ったらそれなりの物件買うんじゃないかな?」


「なぜ他人事なんだ。お前らのことだろう」


「いや、言うて俺達ってこのグランプさえあればかなり快適に過ごせるから」


「…………そう言えば、最初に会った時もあったが随分とでかい獣車だな? そんなに凄いのか?」


「もうすぐ出発するけど、軽くなら見てくかい?」


 その後、中を軽く案内したら「どこの工房だっ!?」と聞かれたので、王都のアイツらを教えた。作ってもらえるかは分からないけど、腕は一級品だからな。


「ふん。時間が作れたら私もエントリーへ観光にでも行こう。それまで息災に過ごすが良い」


「あいよ、ネイドもな。財産巻き上げた俺が言うことじゃないが、頑張って稼ぎ直せよ」


「もちろんだ。なに、私もまだ女神様を諦めた訳じゃない。もっと力を付け、魅力をあげ、それから再びお迎えに上がるさ。今度は決闘など使わずとも、女神様自信が私を選びたくなるほどの男になってな。…………それまで、女神様はお前に預ける」


「誰目線なんだそれ」


 まぁ良いやと、俺はネイドに手を振って馭者台に座ってラギアスに指示する。


 さらばバルジャーレ。中々楽しかったぜ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る