お別れ会。
「んじゃ、ダンジョン探索の縁にかんぱーい!」
「ん、かんぱい」
「乾杯、です!」
場所はギルドの酒場。夕暮れ時で人が多い時間帯。
俺とポロはピーちゃんにメッセンジャーを頼んでエルンと合流し、今回の遠征の打ち上げをしている。
王都経由の旅は中々に刺激的で楽しかった。俺が異世界でやろうとしてる、旅をして見知らぬ魚を釣るって言う生活のはしり程度は形になったかと思う。
「ちなみに、ルリちゃん達は……?」
「留守番してるよ。アオミとピーちゃんが面倒見てるから大丈夫」
「…………よ、良くピーちゃんさんがポポロップさんのそばを離れたですね」
驚くエルンだが、一見扱い難そうなピーちゃんもポロをだしにすればチョロ鳥なのだ。今回は「ポロが安心して留守を任せられる相手なんて、早々居ないんだけどな。…………うん、まぁ、ピーちゃんが嫌なら仕方ない。ポロの信頼を一身に背負うのが難しいって言うなら、どうにか代案を考えるよ。無理言ってごめんなピーちゃん」とか言えば良かった。
俺はそろそろピーちゃんに後ろから刺されるかもしれない。許せピーちゃん、チョロい君が悪いのだ。
「もう、二人は行っちゃうです……?」
「ん? あぁ、目的は達成したからな。と言うかそろそろ海が恋しい」
「潮風が、ポロ達を待ってる」
湖で鱒釣りも素晴らしいが、俺はやはり海がメインフィールドなのだと自覚する。というより、多種多様な魚が釣りたいんだよ。あと基本的に刺身が好きなので、刺身で食える魚の多い場所が好きなんだ。
バルジャーレのダンジョン四層は鱒と鰻が居て、鱒はほぼサーモンだったから刺身も食べれたけど、それだけだ。海に行けば毒の無い魚は殆ど全部刺身で食える。
それに、ポロは一番好きな魚がガシラだからな。エントリーに帰らないとそのうち手持ちのガシラが尽きてしまう。
ガシラの煮物食べたポロは泣いてたからな。ポロが泣きながら食べた物は今のところアレだけなのだ。ポロ自身も、他にもっと美味しいと思う魚は居ると認めたうえで、好きなのはガシラだと言ってる。
説明は難しいけど、なんか好きって言ってた。
ガシラは脂が少ない魚なので、焼きに適さず刺身もそこまでって感じの魚だ。その代わり、煮付けに使うと味がしみしみで相性抜群。だがそんなガシラでも、季節と場所を選べば脂がたっぷり乗った個体も釣れるし、そう言う個体なら塩焼きにしても絶品だ。いつかポロに食べさせてやりたい。
「エントリー、遠いです……」
「バルジャーレから、どのくらいだっけ?」
「ポロ達のグランプなら、普通より早い」
少なくとも二、三日で行ける距離では無い。
「どうしたエルン、寂しいのか?」
「…………はいです。寂しいです」
「あらやだ素直」
テーブルに並ぶ料理をバリムシャしながら
「エルン、一緒に来る?」
「…………行きたいです。でも、お父さんとお母さんのお墓から、離れたくないです」
「あー、そう言う事情があるのか」
そも、エルンは冒険者の両親から育てられ、ステータスも伸ばされてたサラブレッド。しかしエルンが幼い時にダンジョンで亡くなってしまい、自分で働いて生きる事にしたのだ。
ならば当然、両親の墓もこの都市にあるんだろう。
「ふむ。エルン、甘えん坊?」
「そんっ、…………いや、きっとそうなんです。両親が寂しがるからなんて言って、結局は私が親離れ出来てないだけです」
なんか、暗いぞ。せっかくの打ち上げなのに、空気が暗いぞ。だが俺にはどうする事も出来ない。なぜなら俺は両親に対する愛情なんて少しも残ってないからだ。何も共感出来ない話にうんうんと相槌を打てるほど、俺は人生経験豊富じゃない。
「…………? ポロ、良く分からない。エルン旅して、たまに帰ってくる。その時、お墓にお土産話する。それじゃダメ? きっと両親、喜ぶと思う」
「……………………えっ、帰ってくるです?」
「そう。ポロ達、たまにバルジャーレ来る予定。ね、カイト?」
「んぁ? まぁ、うん。エントリーをメイン拠点にするつもりだけど、迷宮鰻も迷宮鱒も迷宮の固有種だろ? 定期的に来ないと品切れするじゃん」
もしかして、エルンは俺達が都市を去ったら永遠に戻って来ないとでも思ったのか? 釣り人なんて、遠征もするけど基本は知ってるフィールドをハシゴする生き物なんやぞ。
「えと、じゃぁ、お二人と一緒に行っても、たまにお墓参り出来るです?」
「そりゃもちろん。二度と里帰りするなとか鬼畜なこと言わねぇよ。なんならポロの実家には定期的に帰ってるし?」
正確に言うと王都を目指すのにそっちの方が近かったって理由もあるけど。
もしや、この世界だと故郷を出たら帰って来ないのが一般的なのか? 故郷に錦を飾れるまで帰って来ない的な? ビッグになるまで帰らねぇぜって?
「エルン。ポロ達は別に、故郷を捨てろなんて言わない。なんなら嫌がっても定期的に来る」
「マジでそう。エルンが嫌がっても俺達は定期的にバルジャーレ来るぞ? 可能なら年一は来たいし、ダメでも数年に一回は来る予定だ」
「その時、旅のお話すると良い。きっと、ご両親喜ぶ」
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