焦るエルン。
死活問題。そう、死活問題と言って差し支えない問題が発生してる。
「ご飯が、美味しくないです……」
都市で買える素材を使って、借りてる自宅の
ダンジョン内でカイトさんによって水準を爆上げされた私の舌は、自分の料理程度じゃ満足出来ない程になってしまった。
なにより、一人でもそもそと食べる食事は寂しく、つまらない。それが輪をかけて美味しくないと思わせる。
カイトさんとポポロップさんは例の決闘で勝ち取った賠償も受け取り、もういつ都市から出ても良い準備が出来てる。
「ルリちゃんにすりすりされながら食べるカイトさんのご飯、美味しかったです……」
私は、カイトさんが好き。
でもそれは、ポポロップさんから奪ってやろうとか思える程の情愛じゃ無い。だから二人が都市から居なくなるとしても、諦めて身を引くつもりでは居た。
だけど、だけども…………。
「ご飯が、美味しくないですぅ…………」
泣きそうだ。凄く寂しい。
私はいつの間にか、あの二人と眷属が集まった空間にも恋をしていたらしい。
単純に私がカイトより料理が上手くないって理由もある。それを勘定に入れても、最近口にする食事がずっとずっと美味しくない。
教わった通りのレシピを再現してみても、自分にしては上手く作れたはずの料理でも、ダンジョンで皆と一緒に食べたカイトさんの料理と比べたら何段も劣る。
二人について行きたい。でも行けない。
この都市には両親の墓があるから。
ダンジョンの中で死んだ冒険者は死体が残らない。だからお墓の中には両親も居ないのだけど、お墓っていうのはそうじゃない。故人を悼み、弔う意思があるならば成立するのだ。
私がカイトさん達について行けば、両親が孤独になってしまう。なにより私が二人を残して旅立ちたくない。私がカイトさんに抱く想いとは、つまりその程度の事なのだ。
どうすれば良いんだろう。カイトさん達と離れるのは寂しいし悲しい。
でも両親と離れるのも寂しいし悲しい。
「私は、どうすればいいですか……?」
この淡い恋心を除いても、私はあの人達と一緒に居る時間が幸せだった。
バルジャーレでの活動は、基本的にお金の為と割り切って過ごしてる。なぜなら男性が主な構成員であるところに雇われると、私の胸ばかり見られて知らぬ間に職場が崩壊するから。
別に他意なんて無いのに、当たり前のお礼とかを言うだけで男性同士が喧嘩をする。何故だか私が誰かを好きで、両想いだなんだと訳の分からない事を騒いで潰し合い始める。
だから殆どが、もしくは全員が女性で構成される冒険者団に絞って雇われるのだけど、バルジャーレには女性冒険者がそんなに多くない。だから正直な話、そんなに稼げない。
良く私を雇ってくれるところも、なんだか効率を求めて遊びは最低限な冒険者さんが多くて、迷宮攻略が楽しいと感じた記憶が特にない。
でも、カイトさん達は常に全力で遊んでた。遊ぶのが目的であり、攻略こそがオマケだった。
そんな時間が、私はたまらなく楽しかった。多分、その時の幸せな気持ちもカイトを好きになった理由の一つなんだろう。
流石に、都市を出る時は挨拶くらいしてくれるはず。そのくらいには仲良くなった自負がある。
でも、挨拶されて、そのあとは?
時間が無い。カイトさん達が都市を出る前に、答えを出さないと。じゃないと、後悔する。それだけは確かだ。
「うぅ、仕事も手につかないです……」
二人が都市を出る時にダンジョンに居たらダメなので、今はギルドからの斡旋も切ってる状態だ。つまり収入がない。
カイトさん達から貰った報酬はかなり莫大な額になったけど、それと相殺して余りある程にバルジャーレは物価が高い。想い悩む暇など、本当はないのだ。
「私はどうしたら…………、みゅ?」
ふと、何かをコンコンと叩く音が聞こえて思考を切る。音の元に目を向ければ、開け放った鎧戸に一羽の美しい鳥がいた。
「ぴ、ピーちゃんさん!?」
その透き通る体を持った青い鳥は、ポポロップさんが使役する埒外の怪物、氷怪鳥ピーちゃんさんだった。
「びっ」
「お、お手紙です……?」
ピーちゃんさんの嘴には二つ折りにされた手紙が咥えられていて、状況から察するにどうやら私宛の物らしい。
手紙を咥えたままだと濁ったような鳴き声になるピーちゃんさんから手紙を受け取り、中を読んでみる。すると、そこにはポポロップさんが書いたらしい文があった。
『そろそろ都市を出る。お別れ会する。明日の昼、ギルド集合。来い』
あまりにもポポロップさんらしい手紙に、思わずふふっと笑う。ご丁寧に、返信用の紙も重なって折られてたので、手早く書いてピーちゃんさんに渡す。
まだ答えは出てないのに、
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