嫌いじゃないし公平に。
「…………なるほど。装備も財産も全て失えば、僕は一時的にとは言え実質的に冒険者を廃業だ。敗北者としての烙印を受け入れ、そして天使様の横に貴様が居続ける屈辱の中で生きる。命を賭けるよりもよっぽど貴様に利があり、そして僕にとっては死ぬより辛い罰と言えるだろうな」
クククと笑うネイドは、その瞳に大きな炎を燃やす。どうやら障害がデカいと燃える
「とぼけた顔をして、なかなかエグい要求をしてくるじゃないか」
「人に最愛の嫁と別れろって言うんだから、それくらいは背負ってもらうぞ」
「ふふ、違いない。どうやら、命一つでどうにかなると思ってた僕こそが間違ってたらしいな。いいだろう、貴様のその提案を受け入れよう」
よし、これでネイドに勝っても奴は死なない。めちゃくちゃ屈辱的かも知れないが、まぁ生きてたらポロ並に良い女だってそのうち出会えるさ。
「では、決闘の内容は? 貴様の使役する魔物を相手にする準備はして来たぞ」
「いや、そこも公平に行こうと思う。さすがに戦闘は俺に有利すぎる。…………まぁある程度の有利は担保させて貰うが、流石に戦闘はな?」
「…………どういうつもりだ? 僕を舐めてるのか? 情けでもかけるつもりか」
「単純に、愛した嫁の前で格好悪いところを見せたくないだけだよ。普通に考えて、負け確を悟りながらも挑んで来た奴を魔物に頼ってボッコボコにする夫とか、ダサくね?」
少なくとも俺は最高にダサいと思う。いくら負けられない戦いだからって、プロボクサーが小学生をボコるような真似をして、嫁に胸を張れるかって言うと穴があったら入りたいと答える。
「というわけで、勝負の内容は『絵』でどうだろう?」
「…………絵、だと?」
「そう、絵だ。俺とお前で、同じ持ち時間の中でポロを描く。それを第三者に判定してもらって、ポロへの愛をより感じる方が勝ちってのはどうだ? お前も貴族なら、芸術の素養はあるんだろ?」
「…………バカにしてるのか!? それは貴族である僕に有利過ぎるだろう! どう言うつもりだ!」
まぁ、普通は平民が絵を描けるだなんて思わない。こんな提案はむしろ、俺が自分から負けようとしてる風にすら見えるだろう。
「ふふふ、お前は甘い。ポロの旦那様は、絵もかける」
「…………え?」
「ほう?」
後ろから自慢げな声が聞こえ、俺はびっくりする。なんでポロが知ってる? 俺は教えたことないぞ?
実は、ポロの言う通りに俺は絵が描ける。それもそこそこの腕だったりする。と言うのも、バイト先の先輩に絵を描く人が居て、大将の店に出すポップやチラシ作りを手伝った時に色々と教えてもらった事があったから。
今どきはタブレットが一つあればイラストソフトをダウンロードし、ピカピカの素人でも絵の練習が出来る。画材なんか少しも必要無く、データとしてのキャンパスが何枚でも作れるから無料でいくらでも練習出来るのだ。
やってみると結構楽しく、
ただ、ネイドの絵が俺を超えてくる可能性はゼロじゃない。ゼロじゃないのだが、そこは愛で乗り越えられなきゃ夫じゃ無いだろ。
「温情を与えられたようで癪だが、良いだろう。俺の天使様へ捧げる愛を全て表現し切り、貴様に勝つ!」
「受けて立つぜ。俺とポロが過ごしたイチャイチャな日々を描き起こして、お前の横恋慕をへし折ってやる」
こうして、俺とネイドの嫁イラストバトルが始まった。
◇
「ルールは簡単だ。使用する画材は自由で、制限時間は二時間。描きあげた絵は、氷の聖女親衛隊から無作為に五名選び、投票して貰って勝敗を決める。三票以上獲得すれば勝ちだな」
「…………氷の聖女親衛隊、とは?」
「ポロは浅い階層で頑張る冒険者に氷怪鳥由来の『溶けない氷』を配った事があって、それ以来そいつらがポロの事を氷の聖女って呼んでんだよ」
「なるほど、確かに天使様は先程の愚物よりよっぽど聖女らしいからな。雑魚共に慕われるのも頷ける」
「ポロは基本的に純粋だからな、困ってる人を見ると助けちゃうんだよ。まさに聖女だよな。前も街道で盗賊が困ってる振りをして罠を張ってたところ、ポロは心が綺麗だからすぐ助けようとしちゃって…………」
「貴様、その汚物をしっかり潰したのだろうな? 天使様を騙すなど、万死でも足りんぞ」
「当たり前だろうが。あの件でポロはしばらく落ち込みまくってて大変だったんだぞ。一回しか殺せないのが悔しかった程だ」
「よくやった、褒めてやる」
「…………気のせい? 二人、仲良くなってる?」
「なってないよ」
「なってませんよ、天使様」
正直なところ、俺は別にネイドと友人になっても良いんだけど、向こうがそれを良しとしないだろうから。
「さて、俺は良いけどお前は画材の準備とか必要だろう? 用意出来るまで待つが」
「ふん、待っていろ。
「会場は冒険者ギルドで良いな。先行って待ってるぞ」
画材を取りに走ったネイドを見送り、俺もポロとエルンを引き連れて歩き出す。目的地は冒険者ギルドだ。
俺が使う画材はリンゴ社製のタブPCと印刷機があれば良いから、そっと
「ところでポロ、なんで俺が絵を描けるの知ってんだ? 言ったっけ?」
「…………ふふふ、内緒」
「そっかぁ、内緒かぁ」
追及を諦めた俺。絶対におかしいんだけど、ポロが内緒と言うなら内緒なのだ。
「あれに勝ったら、教えても良い」
「そっか。じゃぁ是が非でも勝たないとな」
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