アイツよりマシ。



 決闘を受けろと言われて、まっさきに頭へ浮かんだのはアイツ。


 名前なんだっけ? ポロの幼馴染らしいんだが、ぽっと出の俺にポロを取られて発狂したアイツ。


 どうやら俺は、ポロに惚れた男から決闘を挑まれざるを得ない星の元に生まれたらしい。


「決闘、ねぇ。別に良いけど、何をかけるんだ?」


「貴様に要求するのは、天使との婚姻を破棄することだ。その代わり、僕は命を賭けよう」


 言い切ったネイドを見て、俺は「お?」と思った。


「なんだ、ポロを寄越せとか言わないんだな」


「当たり前だ! 天使様は誰の物でもし、そもそも物では無い! 決闘に賭けて良いのは己が権利を持つものだけにきまってる!」


 なんだろう。ファーストコンタクトがゴミだったからムカついてたけど、コイツもしかしたら普通に良い奴なのかもしれない。


「俺の戦力はもう見せたつもりだけど、まさか勝てる気で居るのか?」


「ふんっ、確かに貴様の力は強大だ。僕はきっと、勝てないだろうな」


 何か策があるのかと思えば、自分でも勝てないと言ってる。いや、それもブラフで本当は何か手があるのか?


 そう考える俺に、ネイドは続けて口を開いた。


「だが、勝てないだろう事は決闘を挑まない理由にはならない! 僕はこの気持ちを押し殺して生きるくらいならば、一思いに散った方が良い!」


「…………もしかして、死ぬ気なのか?」


「まさか、勝つ気で居るさ! だが世の中とは僕を中心に回ってない。僕はその事を知ってるだけさ」


 なんだろうな。俺、コイツそんなに嫌いじゃない。というか、結構好きな部類に思えて来た。


 多分だけど、同じ女を好きにならなかったら仲良くなれたと思うんだ。


「だから仲間に告げず、一人で来た。僕の恋路だ、散るのも僕だけで良い」


 ああ、だから仲間を連れて来て無いのか。巻き込まないようにと。


 …………どうしよう、困ったぞ。このまま決闘したら俺が勝つ。そして勝ったらネイドが死ぬ。


 俺、ネイドに死んで欲しくなくなってきた。


 ダンジョンで邂逅した時と同じ好感度だったら容赦なく殺しただろうけど、今は無理だ。こいつ普通に良い奴だぞ。


 そう思うと、こいつの行動を少し思い出して来た。ネイドはポロに一目惚れした後に暴走したが、暴走の結果『周りを無視してポロを口説く』という非常識をしただけで、それ以外は至極真っ当な事を言ってた気がする。


 ポロを口説きながら言ったからクソみたいなセリフになっただけで、人との会話に割り込むのが失礼だと糾弾し、そもそも平民がそんな事をすると不敬で大変な事になる。


 ルリを雑魚と言ってのけた事は許せないが、そもそも冒険者にだって序列はあるだろうし、自分から見て雑魚でしかないモンスターを連れてる冒険者が割り込んで来たらそりゃ怒るだろう。


 ただ一点、ポロに惚れて暴走してたから全部が混ざって非常識の塊みたいになってたんだ。後は、普段から偉そうな喋り方をする性格だったのだろう。その証拠に、ネイドの仲間はかなり気楽に接していた。


 要はドラゴンボ○ルで言うところの、野菜星の王子的なキャラと言えば良いだろうか。アイツは口が悪いけどただのツンデレだし。


「そうか、お前はベジ○タだったんだな」


「……は? いや、訳の分からん事を言うな。なんだそのベ○ータとは」


「M字に禿げてる男の事だ」


「よし分かった侮辱だな? 早く決闘を受けろ! 八つ裂きにしてやる!」


 どうしよう、コイツ嫌いじゃない。殺したくないんだが。ポロに惚れて決闘騒ぎを起こした馬鹿ではあるが、ポロの幼馴染とかいうアイツより数億倍マシだぞコイツ。


 何か上手い手は無いかと、後ろをチラッと見てみる。するとポロは「やっちまえ」と言わんばかりの視線で俺を見て、エルンは「はわわわ、女の子を取り合って決闘ですぅ! 物語みたいですぅ!」と騒いでる。使えねぇ女だ。


 後ろを頼れないと理解した俺は、自分の頭脳を頼る事にした。唸れ、俺の脳細胞!


「よし、分かった。決闘を受ける。だが俺は挑まれた立場なのだから、何で競うかは俺が決めるぞ?」


「ふん、良いだろう。元より不利は承知の事。どんな内容だろうと僕は逃げない!」


 なんだよこのベジー○、どんどん殺せなくなるから止めてくれよ。まぁ殺さないから良いんだけどさ。


「決闘の前に、賭ける物の変更を提案する」


「……む? なんだ、婚姻の破棄を認めないつもりか?」


「いや、俺が賭けるのはそれで良い。だが俺はお前の命なんて要らん。…………冷静に考えて欲しいんだが、お前ならほぼ初対面の男の命とか欲しいか? 普通に考えて要らんだろ? 決闘を受けるにしても、俺になんの得もない」


「むっ…………」


 ネイドは常識人だ。非常識が服を着て歩いてたクソ女に怒りを感じるくらいには常識人だ。だから、ちゃんと言って聞かせれば理解してくれる。


「ならば、何を賭けろと?」


「お前にアロンスターチェの名前を捨てろとか、剣を捨てろとか、色々考えたけど、結局は俺に得が無いんだよな」


 殺したくはないが、しかしポロを欲して決闘を挑んで来た事自体は後悔させてやらなきゃダメだ。舐めた対応は今後の夫婦生活にも影響する。なぜならポロに惚れた男が今のところ100%決闘を挑んで来てるのだ。甘い対応をしたら別の奴が同じことをするかもしれない。


「だから、お前が所有する財産を全て賭けろ。装備も、貯金も、全部だ」


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