隠し撮りと決闘。
俺達を見付けた瞬間、晴れ渡った青空よりも真っ青になったクズ女と、此処で会ったが百年目とでも言いそうな程にテンションを上げたネイド・アロンスターチェ。
あまりにも対照的な二人だが、ネイドがこちらへと歩いてくれば腕に縋り付いく形だったクズ女も何故か一緒にやってくる。
あぁもう、面倒事なのは確定的に明らかである。あの時殺しときゃ良かったなと、俺はクズ女よりは青くない大空を仰ぎながらそう思った。
「待っていたぞ、女神の夫を詐称する男め!」
「詐称って言葉の意味をちゃんと調べた方が良いぞ、あんた」
ずビシィっと俺を指さすネイド。何を考えているのか分からないが、その顔は得意満面だった。マンメンミマンメンミ。
隣でイラッとしたポロが
「んで、何か用かい? 見ての通り、ダンジョンから帰ってきたところで疲れてるんだけど」
「ふん、すぐに済む──────、なんだね!?」
再びネイドがずビシッと要件を叩き付けようとする寸前、クソ女がネイドの裾をくいくいと引く。それはもううっとおしいくらいに引きまくってた。
「見て分からないか!? 取り込み中だぞ!」
「だ、だめです! アレと関わってはいけません!」
クソ女は真っ青な顔のまま、コチラをチラチラと見てアレ呼ばわり。なんだろう。もしかしてこの気持ち、殺意?
「む? 大聖女様はお知り合いか?」
「し、知り合いなんてとんでもありません! アレは悪魔です!」
ほぉ、言うじゃねぇか生臭坊主の癖によぉ。
ピキってる俺とは対照的に、クソ女の言葉を聞いたポロはそれを鼻で笑い、ごそごそとポッケを漁ってスマホを取り出すと、ぽてぽて歩いてネイドの元まで行く。
「ん、悪魔はそっちの女。これ証拠」
そうして大音量で再生されたのは、クソ女が俺達に野営地から退けと言い張り、しまいにはドラゴンを召喚しようとするムービーだった。
ポロさんや、あれ録画してたんかよ。やるねぇ。
「…………な、なんだこれはっ」
「う、嘘ですわ! こんなのでっち上げです!」
『う、嘘ですわ! こんなのでっち上げです!』
ムービーを見せたあとすぐにまた撮影を初め、またすぐにそれを再生するポロ。
「このとおり、実際に起きた事を記録する道具。神様の加護で呼び出せる、異界の道具」
むふーと鼻息を荒くするポロと、秒で本性がバレて更に青くなるクソ女。どうやら人としての格も、うちの嫁が圧勝したらしい。
「……力無き民を導く立場の聖女が、旅人にする仕打ちがこれか。申し訳ないが、今後アロンスターチェ家から教会への支援は考えさせて貰おう」
「そんな、待ってくださいまし!」
「くどい! これが天使様やあの男じゃなかったら、本当に民が無下に殺されて居ただろう! アルマ教会の聖女がこんな人物だとは思わなかったぞ! この件はしっかりと父上にご報告させて頂こう」
驚いた事に、ネイドは思ったより常識人だったらしい。思えば、メンバーの半分が平民で構成されてるパーティに居るのだから、言うほど居丈高な人物じゃ無かったのかもしれない。
パーティメンバーの態度も、貴族相手に
ちなみに、当たり前だがポロが出したムービーはクソ女がドラゴンを召喚した場面まで。そのあとの大虐殺は当然ながらカットしてあった。
ここは俺も乗っとこうか。
「ふん、何が悪魔だよ。道行く旅人を気まぐれにイチャモン付けて殺してる殺人鬼の癖によぉ? あの時、ドラゴンを召喚するまでが随分と手慣れてたな? どうせ俺らが反論して煽り返したりしなくても、難癖付けてぶっ殺すのが予定調和だったんだろ? それが返り討ちにあったら『アレは悪魔です!』だってぇ? 身を守っただけの俺達に、随分な事言うじゃんか。それがアルマ教会のやり方なのかい?」
「だっ、黙りさない!」
「いーや黙らないね。俺がこうやって口にしなきゃ、反抗する力もなくお前に殺されてった無辜の民が可哀想じゃん。今まで何人殺したんだ? どうせ一人二人じゃ無いんだろ?」
「ん、この女は快楽殺人者。あんな場所で殺そうとするなんて、普通ありえない」
「あんな普通の街道側の野営地なんて、目撃者も出そうだしな。そうしたら目撃者も殺したのか? そうじゃなきゃ説明出来ねぇよなぁ?」
俺とポロが詰めると、クソ女は鬼の形相で睨み返してくる。が、有効な反論が出来ないんだろう。襲った証拠はあるのだし、そこは人がいつ来てもおかしくない場所なのも明白。俺たちは間違った事を一つも言ってないのだから。
「…………とにかく、我がアロンスターチェ家は今後、アルマ教会との付き合いを考えさせて頂く」
「お待ちくださ────」
「くどい! これ以上は不敬として処断するぞ! さっさと消えてくれ給え!」
ネイドにもすげ無く袖にされたクソ女は、目に涙を溜めながらキッと俺達を睨み、そして大名行列を引き連れて帰っていった。良い見世物だったと思う。
「悪しき存在を知らせてくれた事には感謝しておこう。天使様も、ありがとうございました。
クソ女の退場を見送ったネイドは、襟をビシッと正して仕切り直した。ようやく本題らしい。
「さて、邪魔が入ったが改めて要件を伝えよう。おい平民、たしかカイトと言ったな?」
「ああ、覚えてたのね。俺の名前」
ちょっと意外でびっくりした。たしかにあの後、他のメンバーから事情を聞く時に名乗った覚えがある。だからメンバーに聞いて覚えてたんだろう。
「カイト、貴様にネイド・アロンスターチェが決闘を申し込む。受けるが良い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます