久しぶりの地上。



 ダンジョンを最大限楽しんだ俺達は、エビとサーモンとウナギを必要量確保した後に地上へと帰った。


 エビを沢山食べてご機嫌になったアオミが俺とエルン、ルリを背中に乗せて透竜形態で飛んでくれたので、帰りはサクサクの工程だった。


 ポロはもちろんピーちゃんに乗って帰ったのだが、一人は寂しいと言ってアオミに乗ろうとしてピーちゃん凄い顔をしてた。なので俺が「ピーちゃん可哀想だぜ」と説得して、何とかピーちゃんに乗ってもらった訳だ。


 一人が寂しいと言うなら、他の人もピーちゃんに乗ればいい話かと思いきや、ピーちゃんがポロ以外は誰も乗せたがらないので仕方ない。


 普段なら可愛がってるルリもたまに乗せたりしてるのだけど、ポロが乗ってる時はポロだけを乗せたいって拘りがあるらしい。


 そんなこんなで、久し振りの地上である。迷宮都市バルジャーレ。


「うぅぅ、終わっちゃったです…………」


「まぁ、そう言う契約だし」


「しかもカイトさん全然名残惜しく無さそうです……」


 そんな事言われてもな。


 あくまでビジネスライクな付き合いだと思ってたし、言うてそんな濃厚な信頼関係が構築されるようなイベントもなかっただろう。


「カイト、分かってあげてほしい。エルンはもう、カイトにがっちり掴まれてる」


 訳知り顔でうんうんと頷くポロに、頬を染めて少し俯くエルン。


「何を掴まれてるって?」


「当然、胃袋」


 自信満々のポロ。そして真顔になったエルン。だが否定も出来ないんだろう、遠くを見詰めてチベットスナギツネになった。


 俯いたエルンが「ポポロップさんだって胃袋掴まれてるくせに……」と小声でボソボソ反論すると、ポロもチベットスナギツネになった。


「チベットスナギツネが二人になっ…………、ん?」


 ふと、ダンジョンの入口付近が何やら騒がしい事に気が付く。


「なんだ? 誰か有名人でも来てるのか?」


 仮に来てたところで、俺はその有名人とやらをほぼ絶対に知らないのだが。


「何か、あた?」


「どうだろうな。エルンは何か心当たりあるか?」


「えと、分からないですぅ」


 肩にミニピーちゃんを乗せたポロと、相変わらずデカいバックパックを背負ったエルンにも聞いてみるが、分からないらしい。


「ふむ。外はまだ日が高いし、打ち上げは夜にやるとして……」


 少し、野次馬でもしに行くか。そう決めた俺たちは、騒ぎの中心部へと向かって歩き始めた。


 ダンジョンを囲う高い壁の内側に、がやがやと騒ぐ冒険者の群れ。その騒ぎの発信源まであと少しと言うところで、なんか聞き覚えのある声が二つ聞こえた。


「バルジャーレでも名高いアロンスターチェ様に、どうしてもお願いしたいのですわ」


「そう言われてもね、困るよ。僕にだって予定や目的と言うものがあるのだから。いくら聖女と言えど、僕を強制する権限など無いだろう?」


 人垣の向こう。そこに居たのは、なんとポロを口説いて玉砕したネイド・アロンスターチェと、俺達に喧嘩を売って凄惨な目に遭った大聖女(笑)が居た。


「…………あいつ、生きてたんだな。てっきりピーちゃんかアオミがきっちり殺してたんだと思ってたわ」


「ん、ポロも」


 ネイドは大勢居たパーティメンバーも連れず、どうやら今から一人でダンジョンへと潜ろうとしてるらしい。そして大聖女(笑)はそんなネイドを捕まえて、なんとか護衛にしようと交渉中に見える。


 大聖女(笑)はネイドと違って、またぞろ手下を何人も引き連れた大名行列を作ってるが、正直めちゃくちゃ邪魔になってる。

 

 ネイド達が居るのはダンジョンを囲う壁の出入口付近なので、そんな場所でゴチャゴチャと交渉してる団体さんなんて邪魔以外の何物でもない。


 ネイドの方は分からないが、大聖女(笑)の方は庶民がどれだけ迷惑しようと気にしないだろうクズだったはずなので、仮に文句を言ったとて聞き入れる事は無いんだろう。


 見た感じ、ネイドがイケメンだから大聖女が粉かけてる感じかな? 貴族とアルマ教会の関係性は分からないが、あんなクズに言い寄られるネイドには正直なところ同情する。


 あぁ、だから無垢なポロに惚れちゃったのだろうか? それでも嫁を譲る気なんて一切無いが。


「まぁ、知ってる顔とはいえ声を掛けなきゃダメって事も無いだろ。スルーして行こうか」


「ん。今日の寝床を確保して、そのあと都市を見て回る。夜にエルンとお別れ会」


「お別れ会とか言わないでです!? なんでお二人ともさっさと終わらそうとするですか!? もしかして私、嫌われてるです!?」


 ぎゃぁぎゃぁと喚くエルンの声は意外と響き、そしてスルーしようとしてた二人の耳にも届いたらしい。


「──────ひッ!?」


「む、貴様! 待っていたぞっ!」


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