甲殻類が好きらしい。



 今更だが、海神の強襲オーシャン・レイドによって使役されてる精霊と、海の獣で使役してるアオミは活動範囲が違う。


 なんなら、アオミとピーちゃんが望めば単独でダンジョンの奥地へと進んだり、勝手に地上へと帰る事すら叶う。


 何が言いたいか? つまりアオミが本気で湖を攻略し始めた。


 それはひとえに、大好きな甲殻類を食べる為に。


「アオミ、張り切ってんなぁ」


 もう既に大コンテナ七十個を超えるスタックが手に入ってる。


 こんなにも甲殻類が好きだとは思わなかった。今度エントリーに帰ったらカニも探してみようかな。きっと喜ぶだろう。


「…………アオミノウミウシはクラゲを食べる生き物なんだけどなぁ」


 アオミは透竜形態とウミウシ形態を使い分ける海竜種で、透竜形態はアオミノウミウシそっくりなのだ。だけどアオミノウミウシは主食がカツオノカンムリと言う毒クラゲなのだ。


「やっぱ似てるだけで別の生き物なんだなぁ」


 とにかく、今は料理である。


 今まで食事をあまりしなかったアオミだが、今回は俺たち以上に食べる気らしい。なので俺はせっせと料理する。


 そのまま食べるよりも俺が調理したテッポウエビの方が美味いらしく、ささっと素揚げを作りながらも他の料理も作ってる。


 このテッポウエビ、見た目がアメリカザリガニの癖に取れる身が豊富で、どちらかと言うとウチダザリガニっぽい。アメリカザリガニはデカイ癖に殻を向いてもカップ麺に入ってる乾燥エビくらいの量しか身が取れないのに、こいつは殻をむくと生のクルマエビくらいは身が取れる。


 なので、俺は剥き身にしたエビに小麦粉をまぶして卵液にくぐらせ、パン粉をまぶして油へイン。


 更に水で解いた天ぷら粉にもくぐらせて油へイン。


 エビフライとえび天を同時に作ってる。


 それをテッポウエビ捕獲RTAしてるアオミに食べさせると、どっちも美味しいと喜んでまた湖に潜っていく。


 アオミのエビ捕獲方法は、獲物を体内に取り込んでから消化せずに帰ってくるだけ。なので難しい事は何もせず、体を透明にして擬態したらただ水底を徘徊してから戻ってくる。進路上にエビが入れば勝手に体内へと捕獲されるのだ。


 俺の仲間で最大戦力であるアオミが珍しく「沢山食べたい!」とわがままを言ったのだから、俺はそれを叶えるべきだと思う。アオミは普段本当に自己主張しないからな。


 合間にアオミ用の素揚げを齧って食べるが、やっぱり美味しい。頭からがぶりしゃす。カニ味噌と出汁が口の中に「おら美味いやろ!」って暴れ回る。


「はぁ、エビみそうっま」


「エビみそ、エビの脳みそ?」


「いや、違うぞ。それっぽいからエビみそって言われてるだけで、実際は中腸腺っていう臓器だな。確か肝臓と膵臓が一緒になった臓器だったかな?」


「…………!? の、脳みそじゃないっ?」


 驚愕するポロは、また別の料理を任せてる。


 エビを頭から真っ二つにして、半身を網で焼くのだ。殻を下にして火にかけ、身の方に軽く料理酒をかけてチーズを乗せてエビの網焼き帽子乗せだ。


「こんな料理もあるですか」


 そしてエルンは今日も今日とてお勉強だ。網焼きの方は簡単なので誰でも作れるしな。


「これは、どんなエビでも出来るです?」


「この焼き方は大きいエビ用だが、まぁ網で焼くなら大抵いけるはずだぞ」


「食べれない種類とかあるです?」


「どうだろうな。ただ、俺の故郷だと毒持ちのカニは居ても毒持ちのエビは存在しなかったんだよ。だから大丈夫だとは思うが」


 そう、俺が割りと無警戒にエビを食ってる理由の内の一つ。エビは毒持ちが居ないって事がある。


 少なくとも日本で見つかるエビはほぼ全部、無毒だ。カニでさえ確か三種類くらいしか見付かってなかったはずで、甲殻類って結構毒持ちが少ない印象がある。


 もっと言うと、それを食べて育ったらしい迷宮鱒が無毒だからって理由もある。こういう生態は基本的に毒持ち食べる生き物は毒を蓄えるケースが多いのだ。


 もちろん異世界だから絶対じゃないし、ほんの少しくらいは可能性もあるだろうとは思ってたけど、今回だけで言えば十中八九大丈夫だと思ってた。


 見た目がザリガニだからって理由もあったかもしれない。ザリガニってのはロブスターの近縁なので、美味しい可能性が高かったのだ。


「あくまで俺の故郷だったら、って話だから絶対じゃないけどな。でも俺はエビを比較的安全な食材だと思ってるよ」


 もし地球で遭難、漂流などしたら俺は積極的にエビを食べると思う。加熱調理さえして寄生虫を除去すれば無毒で美味しいサバイバル食になってくれるから。


 川にも海にも居るから探せば比較的簡単に見つかるだろうし。水場なんて遭難したら真っ先に探すべきだし、そのついでに入手出来る安全な食材だと思ったら相当上等な部類だろう。


 まぁ異世界来ても俺は速攻で釣りをして魚を食ったから説得力なんて無いけどな! あの時は遭難だとか思ってなかったし!


「さて、次は何作るかな」


「え、まだあるですか?」


「あるぞー? 日本人はエビ大好きだからな!」


 剥き身のエビを軽く叩いてから繋ぎと混ぜてこねる。そして小麦粉、卵液、パン粉とまぶして油へイン。そう、エビカツだ。パンで挟んでエビカツサンドとかどうよ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る