人より高度な武器を使う魚介。



 翌日、俺は朝から湖の追加調査をして、目的の物を早々に見つける事が出来た。


 なんでそんなに早かったかと言えば、釣りじゃないならなんでも良いやと海神の強襲オーシャン・レイドで精霊に取ってきてもらったからだ。


 そうしてご対面した甲殻類を前に、俺は様々な感情に情緒を揉まれる。


 例えば「やっぱダンジョンって最高だよな」とか、「いやお前それ何がベースなの」とか、「一番美味そうな場所が食えるのか否か」とか、やっぱり様々だ。


「うわ、湖にこんな生き物も居たんですね!」


「カイト、これはエビ……?」


 そう、見つかったのはエビ。残念ながらカニじゃ無かった。


 大きさは手のひらから溢れそうなサイズで、見た目はザリガニみたいに殻がゴツゴツした感じだ。色も赤くてアメリカザリガニを彷彿とさせる。そして重要なのが、片方のハサミが異様に発達して大きい事。


 ここ重要。エビやカニなんてハサミの片方が特に発達してる種類なんて珍しくもないのに、わざわざ「異様に発達」と評するくらいにはサイズ感がおかしいハサミ。


 俺はその存在を知ってる。日本にも生息してる海老の一種で、間違っても淡水に生息はしてなかったはずなのだが。


「お前、多分テッポウエビだよな……?」


 テッポウエビ。小型甲殻類の癖に人間よりも高度で実用性の高いプラズマ兵器を所持してるふざけた生物だ。


 異様に発達して巨大化してる片方のハサミは、その大きさに見合うだけの筋肉を使って音速を超えて稼働する。

 

 その時に発生するバブルパルスが水分子を電解して酸素と水素に分け、そして酸素と水素が再び結び付く時の合成反応熱によって四千度を超えるプラズマが生み出される。


 これを水の中で行うとプラズマによって水が瞬時に蒸発するので衝撃波が生まれ、このテッポウエビはそれを武器として使って自衛や狩りを行うのだ。


 なんかもう、人間が頭を捻って科学してるのが馬鹿らしくなるくらいにはオーバーテクノロジーウェポンを、人間がハラキリサムライしてる頃から使ってる生き物なのだ。


 水から出しちゃえばプラズマも使えないので比較的完全になるが、それでも異常発達したハサミは普通に危ない。水の中ならプラズマを生み出せる程の筋肉が詰まってるから、挟まれたら終わる。


 地球なら大きくても7センチとかクルマエビくらいの生き物なのだが、しかし異世界のテッポウエビさんは巨大ザリガニサイズだ。シャレになってねぇ。


「カイト、これ食べれる……?」


「ん? あぁ、食べれるぞ。多分だけど」


 あくまで地球のテッポウエビと似てるねって話だから別種の可能性もあり、毒が有る可能性もゼロじゃない。でも日本のテッポウエビなら普通に食べれるし美味しいエビなのだ。


「地球のテッポウエビなら刺身でも食えるが、淡水性の甲殻類を生食すると命に関わるからな。今回は素揚げにでもするか?」


 淡水性の甲殻類は激ヤバな寄生虫が多いので、もし食べる場合は確実に隅々まで火を通して食べるべし。モクズガニとかを半生で食べて当たる人も居るし、その場合の死亡例も存在する。割りと真面目に死の危険がある。


 特にコイツは見た目もザリガニっぽいし、余計に危険を感じる。ザリガニは肺吸虫とかの中間宿主なので、絶対に生食はダメだ。


「淡水性の甲殻類やカエルとか、マジでヤバいから絶対に火を通せ」


「わかた」


「え、毒なんですか……?」


「毒よりヤバい」


 肺吸虫は名前の通りに肺に寄生するが、場合によっては脳に達する場合もあってその場合は本当に命に関わる。いや肺炎を引き起こしても命に関わるんだけど、脳に寄生されたら完治しても後遺症は残るだろう。


「と言うわけで素揚げにしよう」


「えっ!? 食べるんですかっ!?」


「そりゃ食うよ?」


 日本人舐めんな。テトロドトキシン持ってる生き物さえ食べようとするアホ民族だぞ。フグ食が確立するまでどれだけの犠牲があったのか想像すら出来ないぜ。


 とりあえず鍋に油を注いで火にかける。その間にテッポウエビ、いやテッポウザリガニとでも呼ぶべきエビだかザリガニだか分からない存在の下処理をする。


 まず串を脳天に刺して絞める。生きてるとハサミが危ないから。そして腹のワシャっとした部分に溜まった泥や汚れをブラシで擦って綺麗にする。


 その後に尻尾の先端にあるヒレの真ん中をペきっとへし折って捻り、引っ張る。するとエビの背わたがズルっと引き抜ける。


「これが出来るって事は、コイツやっぱザリガニなのか?」


 この背わたを抜く方法はザリガニに有効で、例えばクルマエビだったら逆に胴体との付け根に串を入れて取り出す方法がある。


 結局エビなのかザリガニなのか良く分からないまま、処理が終わったそいつをキッチンペーパーで水気の処理をして、カンカンに熱した油にイン。


 ジャワァーっと盛大に音が鳴ってエビが、赤黒い色を鮮やかな赤に変えていく。アスタキサンチンが熱に反応してこうなるのだ。


 しっかりと火を通すため、十分くらい揚げる。生焼けはマジで危ないので絶対に火が通ると安心出来るだけの時間は確実に調理する。


 とりあえずアオミが捕獲してくれた七匹ほどのテッポウザリガニを全て揚げ、キッチンペーパーの上に出して油を切る。


「実食と行くか」


 良く揚がって防御力の落ちた巨大ハサミをバキッと折って、かぶりつく。


 ゴリゴリゴリガリゴリガリガリ………………。


「…………かってぇなオイ。げんこつ煎餅食ってるみてぇになってる」


 まぁ、美味いか不味いかで言うと美味い。出汁がよく取れるだろうエビを殻ごと揚げてエキスを閉じ込めてるのだから、そりゃ美味いに決まってる。


 ただ硬い。異常発達したハサミは本当にげんこつ煎餅みたいになってる。次からここは出汁取り用にした方が良いかな。ギッチリ肉が詰まってるはずなのに殻が厚すぎて肉感が薄い。


 ふむ。今度は、残った反対のハサミをペきっと折って食べてみる。


「おぉ、こっちはサクサクなんだな」


 殻がサクサクで身がほくほく。深い出汁が効いてるエビの身は噛む度にエキスが滲み出て相当美味い。これは当たり食材だ。


 ふと、気がつくとアオミが揚がったエビを一つ、勝手に食べてた。体の中に取り込んでスライムみたいに溶かしてる。


 かなり珍しい光景と言える。アオミはあまり食事に強い興味を持たない方だから、勝手に何かを食べる事は今まで一度も無かった。


 むしろ、食べるかと聞いても要らないと断る事も多いので、正直食べること自体が苦手なのかと思ってた。


「アオミ、美味いか?」


 聞いてみると、多分初めてアオミから全力の「美味しい!」が返ってきた。とても強い感情がスキルを倒して叩き付けられる。


 むふむふ。アオミはエビが好きなのか?


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