目的を忘れて遊ぶ。
三人でそれぞれオリジナルのセニョールを作った。俺は基本的に二色のビーズを使ったサンゴヘビ型。
ポロはラメの効いたビーズを何種類も用意して、暗色から明るい色へとグラデーションするセニョールを作った。
エルンは数色のビーズを使ってミサンガのような物を用意してる。仮にこれをミサンガとして渡されたなら普通に嬉しいと思うくらいには綺麗なセニョールだ。
仕様タックルは全員同じでアブガルの廉価リールに鱒ライダー。
「じゃ、始めるぞ」
「望むところ」
「負けないですぅ!」
今から俺達は、誰のルアーが一番釣れるかって言う勝負を始める。優勝者には、夕食の献立を一品決めて良い権利が与えられる。
エルン用の船も追加で買って、俺達はそれぞれが単独で湖に出て迷宮鱒を釣る。勝負科目は二つで、サイズ勝負と数釣りだ。
30センチ以下の迷宮鱒はリリースするが、それ以上の個体は全キープ。そして数で勝った人と、最大サイズで勝った人が一品ずつ夕食をリクエスト出来る。
まぁ作るのは、俺なんだけどな。
「……………………ゎうッ!」
ルリの吠え声を合図に、俺達は同時にタイマーのセットボタンを叩きながらエンジンのスロットルを捻った。
エルンも既に基本的な操作は教えてあるし、ライフジャケットも着せてある。
俺達はお互い、自作のルアーを予備含め数個とランディングネット、フィッシュメジャー、あとは釣った魚をキープする為の生簀とストリンガー。スタートはほぼ真昼からで、制限時間は三時間。
「湖の釣りは難しいけど…………」
まぁ、正直俺が有利だ。
適当に船を進めてポイントを決め、エンジンを停止する。周りを見れば、ポロはまだ船を進めてポイントを探してるらしい。エルンはよく分からないのだろう、ポロの後ろについて行ってる。
「通い慣れたフィールドなら
だが、淡水で魚を釣る時に狙うべきポイントはいつだってそう変わらない。
まずストラクチャーに当たって水流が曲がって泡立つ場所、瀬。
落札のある地形で発生する、落ち込み。
流れが緩む場所に合流する、流れ込み。
流れが緩く水深がある、トロ場。
そして水中にある
基本的にこの五つを狙えば取り敢えず魚が居る。
「たけど、この程度の基本はちゃんとポロにも教えてる」
不利なのはエルン。だから俺がポロに着いて行く判断をしたエルンは正直大正解だ。知らないなら知ってる人を見て学べば良いのだから。
じゃぁ何が俺の有利か?
「ウナギ釣りで地形確認はバッチリなんだよな」
六層へ向かう前の四層キャンプで俺は、夜行性のウナギを釣るためにぶっ込み仕掛けを投げまくった。釣り人は釣り糸を通して水中の状況を確認する生き物だ。
透明度がある場所なら見て分かるが、そうじゃない場所は重りが水底を摩する感覚を指先で覚えるのだ。
「ポロは陸からのぶっ込みしかしてないから、船で夜通しぶっ込みとかして地形を覚えてるのは俺だけのアドバンテージ」
人差し指にセニョールを巻き付け、指を抜く。バネ状になったセニョールをそのまま、湖へとキャストする。
このセニョールってルアーは面白くて、針金を螺旋状に巻いて使うのが前提なので、巻く太さや感覚を変えることでアクションを若干変えられる。つまりアピール力が変化するのだ。
人差し指に巻き付けるのは基本の使い方で、親指に巻いても良いし小指、いや割り箸に巻いても良い。巻いてバネ状にしたセニョールをあえて引っ張り、巻きを緩めてから使っても良い。可能性は無限大、とまでは行かなくてもかなり広い可能性があるルアーなのだ。
セニョールのアクション方法は基本的にただ巻くだけ。気を付けるべきなのはリトリーブスピード、つまりリールを巻く速度である。
ゆっくり、でも遅過ぎない絶妙な速度でリールを巻く。
止水域だと思われがちな湖だが、実はちゃんと流れがある。それによって発生する流れ込みなどの追い越すように投げ、流れ込みを通過するようにルアーを通す。
一回目は、反応無し。もう一度同じ場所へ投げて、巻く。
「…………………………来たッッ」
ロッドを立ててフッキング。しっかり乗ったので寄せて行く。
「……あれ、小さいか?」
いや、引きが弱い訳じゃない。だが迷宮鱒は大型なので、地球産の鱒と比べて『良い引き』程度の物だと、迷宮鱒基準で言うとそこまで大きくない事になる。
30以下はリリースのルールだが、地球のニジマスで30センチだったら普通に加食サイズだし。だが迷宮鱒では30程度はまだ子供だと思えるくらいに大型だ。
「まぁ、この引きだったら30センチ以下って事もないだろ」
リールを巻き上げて魚を寄せ、ランディングネットですくい上げる。
その大きさは予想通り、フィッシュメジャーで35センチと分かる。
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