四層でセニョール作り。



 なんやかんやあったが、無事に四層へと辿り着いた俺達。すぐに設営を初めて前回と同じ場所を確保した。


 この湖は景色も良いし釣りも楽しく、釣れる魚も凄まじく美味い。何一つ不満が無い最高のロケーションであり、だからこそ逆に不満がある。


 何が不満かと言えば、この迷宮都市バルジャーレがエントリーから遠すぎるのだ。これだけ綺麗な場所なんだから、定期的に来たいじゃないか。


「よーし取り敢えず釣りしよーっと」


「朝はサーモン、夜はウナギ」


 ダンジョンサーモンとダンジョンイールが、俺達の心を掴んで離さない。


 日中はサーモンを釣って、夜は夜行性のウナギを釣る。24時間ずっと美味しい魚が釣れるとか最高過ぎる湖だ。


 何より養殖しなくてもずっと無限に取れるって時点で随分なチートだと思う。地球じゃ日本人がウナギの絶滅がチラつく中で頭抱えて必死に色々やってるのにさ。


「ああ、ここのウナギを大将に送ってやりてぇ……」


 大将もウナギが年々値上がりしてる事を憂いてた。大将の鰻重は世界一美味いから店のメニューから消えるなんて事にはなって欲しくないんだけど。


「…………カイト、これはなに?」


 俺がもう会えない恩人のことを考えながらタックルを用意してると、トラウト用のルアーケースをいじってたポロがぐにゃぐにゃした何かを取り出して俺に見せてきた。


「ん? ああ、自作のセニョールか」


「せにょーる?」


 トラウト用ルアーの異端児、セニョールハリケーン。凄く簡単に言うと針金にビーズを通して両端にルアー用の加工をしただけのアイテムだ。


 どんな物かはネットで「ルアー セニョール」で検索すると出て来る。異端児ではあるが結構メジャーなルアーでもある。


「これも、ルアー?」


「そう。まぁぐにゃっとした棒にしか見えないのに、魚が食うのかって思うだろ? まぁちょっと見てろ」


 俺はさっさとタックルのセットを終わらせ、ポロが手にしたセニョールを受け取る。


 ラインにセニョールをセットしたら、その針金を自分の指にグルグルと巻き付けてから途中で指を抜く。そうすると、バネのように螺旋状に成形されたセニョールが残る。


「このルアーは、こう言うふうに使うんだ。それで、これを水の中に通すと……」


 実際に水の中でルアーを泳がせてみる。


「………………お、おぉぉお、くねくねしてるっ?」


 そう。ビーズで装飾されたた針金を螺旋状に巻いてから水の中を引っ張ると、まあ当然ながら水の抵抗で螺旋状の針金がクルクルと回転しながら引っ張られる。


 その回転しながら水の中を進む螺旋の針金を横から見ると、ミミズ的な生物がくねくねと泳いでるように見えるのだ。


 原理的には目の錯覚を利用してるだけなので、実際にくねくねしてる訳じゃない。ペンを指でつまんでゆらゆらさせると曲がって見えるアレと似てる。


「ほぇ、すごい。…………あれ? カイト、自作って言った?」


「おう、言ったぞ。そのルアーって俺が自分で作ったんだよ」


 このセニョール、市販品も売ってるが構造が簡単なので自作も可能なのだ。特許的に自作が許されるのか知らないが、発売から未だに訴訟された例を知らないので多分大丈夫なんじゃないだろうか。メーカーが黙認してるだけなのか公に認めてるのかも分からないけど。


「あ、そうだ。どうせなら今から作ってみるか? 自分で作ったルアーで魚か釣れると凄い楽しいぞ」


「……ッ! や、やる! やりたい!」


 と言うわけで、みんなでルアー作りする事になった。せっかくだからエルンも一緒にやる。


「ルリ、暇だったら散歩してきて良いぞ。アオミかピーちゃんはルリを見といてあげてくれ」


 のっそり動いて肯首するアオミと、「だ、誰がお世話なんかするもんか!」って顔をプイッてする癖にルリが心配でチラチラみちゃうピーちゃん先輩にお任せして、俺達は一旦工作の時間だ。


 用意する物は細めの針金。各種ビーズを色々。サルカン。二重リング。トラウト用の鈎。ペンチ。そしてドライバーでもアイスピックでも良いから細い鉄の棒を一本。


「これだけ?」


「そう、これだけ。まぁ取り敢えず一本作ってみるから、見ててくれや」


 俺は針金を14センチ程の長さにカット。そうしたら片方の先端を1センチだけ折り返し、折り目にドライバーを噛ませて捻じる。グルグルとネジって行く。


「こうするとラインを結ぶ穴を確保しながら針金を加工できるんだ」


「なるほど」


「思ったより綺麗に捻れるです」


 ドライバーを噛ませてた場所が綺麗に丸い輪っかとして残る。これを『アイ』と呼ぶのだが、このアイを潰さないように次の加工へ行く。


「そしたら針金にビーズを通していく。このビーズ選びが個性であり、ぶっちゃけ魚へのアピール力に直結する」


 俺はワインレッドのビーズとパールホワイトのビーズを交互に入れていく。そうすると針金は目が覚めるビビットなボーダーカラーに変身する。サンゴヘビモデルとでも呼ぼうかね?


「かわいい。ポロも可愛いの作りたい」


「これ、何種類使っても良いんです?」


「もちろん良いぞ。好きなように作ると良い。ただ、ビーズをギッチギチに詰めないように気を付けてくれな? 反対側にもアイを作るんだが、ビーズがギッチリ詰まってると加工出来ないんだよ」


 針金をネジってアイを作り、好みのビーズを入れて装飾し、そうしたら反対側もネジってアイを作る。これで八割は完成した。


 あとは両方のアイに二重リングを繋いで、その二重リングにサルカンと鈎をセットしたら完成だ。サルカンと鈎は片方ずつな。


「出来上がったら、サルカンの方にラインをセットしてすぐ使える。指にクルクル巻いたら、普通にルアーとして投げてゆっくり巻くだけ」


「ポロも、ポロもつくる!」


「はわぁ、これは綺麗ですねぇ。漁に使う疑似餌と言うより、何かしらの装飾品みたいですぅ」


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