決闘ごっこ。



 ありったけ料理をして、亡者のごとき冒険者達を散らした俺達はやっと食事である。


 ポロが炊いたご飯をメスティンごと配膳し、レアカツとフィッシュチップスとうたった骨せんべいも用意する。


「いただきます」


 両手を合わせて海神様に祈る。今日も美味しい魚をありがとうございます。これ湖の魚だしここダンジョンだし、海神様の担当かどうか分からないけど。


 さて実食。


 元々はエルンに教えてあげようって事だったので、再現が難しいマヨネーズは控えてウスターソースだけを使う。


 ウスターも難しいっちゃ難しいけど、でも材料さえあれば作れるのでマヨネーズよりはマシ。マヨネーズは卵の衛生管理からクリアしないといけないので、一個人がどうにか出来るレベルじゃない。


 さて、レアカツのお味は……?


「んぁぁああ、うっまぁ〜……」


美味びみ……!」


「これは、もう暴力ですぅ〜」


 半端な火入れでサーモンの生臭さが際立つ、なんて事は一切なく。むしろカラッと揚がった香ばしい衣の風味によって装飾されたサーモンは淫靡な色気を含んでおり、ねっとりと舌を這うその食感は愛撫のようですらある。


「カイト、ごめん。ポロは我慢出来ない」


「これは仕方ねぇ」


 俺とポロは早々に目的を捻じ曲げ、封印されしマヨゾディアを解放して地獄の業火マヨゾードフレイムでデュエルに勝利した。飯テロ系の動画クリエイターがすぐ優勝って言う理由がやっとわかった。これは優勝してる。確かに優勝してる。


 料理の再現性? エルンへの配慮? 知るかボケ。嫁と美味いもん食うのが最優先じゃ。俺は嫁と優勝するんじゃい。


「びゃぁぁあうまぃぃい〜」


 マスオさんなりながら食べ進める。マジで美味い。


 大将の作るレアカツがこの世で最強だったのだが、素材が迷宮産のサーモンだからか劣らない味に仕上がってる。と言うか単純に迷宮鱒が美味い。


「か、カイト…………」


「どうしたポロ」


「……り、リバースカード、おーぷん」


 まさかの裏切り。一緒にマヨゾディアでエクストラウィンしたのに、今度は俺を倒す気なのかポロよ。


「約束されし、七味唐辛子を発動……! マヨネーズに、イン」


「ぐぅッ!? 揚げた魚介に七味マヨなんて、絶対に美味い奴じゃんそれ……!」


「…………お、お二人が何を言ってるのか分からないです」


 そりゃ決闘者じゃないとなぁ。


「だったら俺はトラップカード、マキシマムの宣告を発動。ライフを半分払う事で俺はマキ宣の効果で七味マヨにマキシマムをチェインするぜ」


「……ぐ、手強いっ」


 ちなみに、ポロもネットでアニメを漁っただけなので知識は凄くふわっとしてる。俺がショップで本物を買えれば良いけど、生憎と海で遊んでばっかだったからカードゲームとかした事ないんだ。友達も居なかったし。


 要するに、今は決闘者もどき二人が決闘ごっこをしてるだけでどっちも本物の決闘を知らない。


 そうやって遊んでいると、ルリがひょこっと顔を出したのでレアカツを食べさせてあげる。なんて可愛いんだうちのルリは。


 ルリは辛いのが好きじゃないっぽいが、しかし香辛料は嫌いじゃない。なので七味マヨよりマキシマヨの方がお口にあったらしい。


「ふ、この瞬間に俺は、レアカツ一つをリリースしてアドバンス召喚! いでよ、もふもふ天使ルリエル!」


「ぬぅ、それは、禁止カードのはず……!」


「…………お二人が楽しそうだって事だけ分かったです。はむ、おいしっ」


 その後も「ダイレクトアタックだ!」とか言いながら相手の口にレアカツを放り込んだりしてイチャイチャしつつ、大満足な食事を終えた。


 レアカツ美味かったなぁ。


 そして一晩明けて翌日。


 朝ごはんは昨日捌いたサーモンのアラを使った味噌汁と、迷宮鰻を散らしたひつまぶし風のだし茶漬け。おあがりよ。


「贅沢になるですっ、贅沢になっちゃうですぅ〜」


 仕事の終わりが見えて来た最近はエルンの情緒が危ない。食事に求める水準が食事を食べる毎に上がっていくのは恐怖なのだろう。


「なんで朝からこんな手が込んだ物が出て来るです!? ここはお宿じゃ無いですよ!」


「ああ、そらゃ俺が釣り人だからだな」


 釣り人の朝は早い。朝まづめを逃さないように日が昇る前に活動を始める。


 そんな俺が五層と言う釣りが出来ない場所に居たら、早起きした分だけ暇なのだ。そりゃ朝ごはんも凝るってもんよ。時間余ってんだもん。


 早朝から炭に火を起こして鰻を捌いて白焼きにするとか、ちょっとした板前みたいな事してるよな。


「まぁ良いじゃん、美味いんだし」


「美味しいのが問題なんですぅ〜!」


 と言われてもな、そのためにレシピ教えてんだし。


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