サーモンのレアカツ。



「生のレシピが知りたいんだろうけど、ごめんな。言うほど多くないんだわ」


「あ、いえいえ! 魚を使った料理はカイトさんに勝てないので大丈夫です! 普通の料理だって助かるですよ!」


 元気いっぱいに宣言するエルンと二人で追加の料理を始める。


「まぁ、実はコレも生っちゃ生なんだけどな」


「え、火を入れるんじゃ無いです?」


「入れるけど生なんだよ」


 …………入れるけど生って発言かんかアレだな。別に変なこと言ってないのにアウト臭がする。


 さて料理だ。


「この料理、実は料理法や材料とは関係無いところに一番重要な問題がある。俺とエルンなら問題なく解決出来るだろうが、他の同業者さんだとちょい難しい料理だぜ」


「そうなんです?」


「そうなんです」


 ポロが厳しい目でご飯を炊き始めた横で、俺はまたサーモンのサクを用意する。


 そして次に出すのは食材じゃなく、調理器具。


「お、大きいです……!」


「そう、重要なのは器具の大きさなんだ。これ、サクを丸ごと揚げる必要があるから小さい調理器具じゃ完成しないんだよ」


 俺が取り出したのはデカイ鍋。横幅50センチくらい有りそうな深めのフライパンだ。


「あ、だから……!」


「そう、俺とエルンなら収納系の加護で持ち運び出来るだろうが、他の荷物持ちポーターさんは無理だろ? こんな鍋を持ち歩くとか無駄の極みだもんな」


 そう言って俺は、フィッシュチップスを揚げた油をデカ鍋に入れ替えながら火にかける。油を熱してる間に食材の用意だ。


「と言っても調理自体はそう難しい事も無い。ただ準備と片付けが非常に面倒なだけだ。それも俺達なら最悪、そのまま収納して次使う時そのまま出せば良い気もするが」


 説明しながら、30〜40センチくらいある巨大なサーモンの半身に小麦粉をまぶす。そしてボウルに卵を落として掻き混ぜ、小麦粉まみれの切り身を卵液にくぐらせた。


「これにパン粉をまぶして、揚げる準備完了」


 この時、手間をかけて良いならパン粉にガーリックオイルとかを入れてサッと炒めて置くと良いし、他にもパン粉にバジルとかを混ぜといても良い。ちょっとしたアレンジなら大体成功する。


「で、熱した油に丸ごとイン。揚げ時間は大きさにもよるが、このサーモンだと一分半か二分くらいかな? 一分経ったらひっくり返してもう一分いこうか」


「え、そんなに短いんです?」


「生にするって言ったろ?」


 からっと揚がったサーモンを取り出してバットに置く。油を切ったらまな板に移して、揚げたサーモンフライを1センチから1センチ半くらいの輪切りにする。


「お、おおおぉっ!?」


「な? 中心が生だろ?」


 そうして出来上がったのは、外側に火が入って中が生のサーモンフライだ。断面はカツオのタタキに衣が付いた感じを想像すればそれであってる。


 と言うより、「サーモンのタタキを、炙らずに油で揚げて作った」が正しいか。形としてはほぼタタキである。


「さてここに、ウスターソースをかけて『サーモンのレアカツ』完成だ。本当はマヨも使いたいが、エルンが一人でマヨを用意出来るかって言うと微妙だしな」


 そしてレアカツ完成した頃には、グランプ前の野営キッチンは冒険者達に囲まれてた。


 血走った目でレアカツを見る冒険者達。むくつけき男たち。むさっ苦しいわボケが。


「な、なぁ、それって四層の魚だよな……?」


「あぁくそっ、美味そうだ。匂いだけで酒が飲みたくなる……!」


「金を払ったら、食えねぇかなぁ」


 まるで亡者だった。


 だが、俺が釣った魚はなるべく俺が食べたい。迷宮鱒は戦闘能力が無いから海神の強襲オーシャン・レイドを気にする必要も無いのだが、それ以前に俺は釣り人なのだ。魚拓が欲しいのだ。食べないと手に入らないのだ。


「あー、自分で四層の鱒を取ってくるなら調理くらいはしてやるよ? もしくは今持ってる奴とか────」


 ──ドンッ!


 俺が言い切る前に、もうテーブルに迷宮鱒を乗せる冒険者が居た。


「これで頼む」


「あ、お前バカそれ売り物……!」


「帰りにまた取れば良いだろ! 時空庫持ってんだからよ!」


 サーモンを出した彼のパーティが文句を言うが、それを封殺する冒険者。どうやら収納系のアイテムを持ってる冒険者らしいね。


「えーと、他には居ないか? 流石に面倒だから食事が終わってから言われてもやらないぞ」


 流石に現物を持ってる奴は他に居なかったらしく、数人は従属させてるモンスターに跨って四層へとダッシュで消えた。他は諦めるか、俺にサーモンを差し出して来た冒険者を相手に交渉をしてる。


「んじゃ、材料も増えたしエルンの練習に使うか。あ、これ味見しろよ」


 エルンの口にレアカツを放り込むと、「んんんん〜〜〜!」と幸せそうにくねくねする。まぁ美味いよな。分かる分かる。このレアカツ、大将の店でも常に人気トップスリーに居たメニューだもん。


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