材料は一緒。
「あ、美味しいです……」
「けど、味が一緒」
「いや流石に一緒ではねぇよ? 凄まじく似ては居るけど」
マリネとカルパッチョの実食が始まった。
カルパッチョとマリネ。使ってる材料が同じなので味も完全に一緒、とはならないのが不思議である。ポロによると同じ味との事だが、それは違う。
マリネは和えて漬け込んだ「海外風の酢の物」といった味わいであり、カルパッチョは上に乗せたタマネギを刺身で包んで食べる感じが「大量の薬味を乗せて酸っぱいソースで食べる刺身」となる。
材料が同じなのでそりゃ味が似る。似るけど、その二つは似て非なる物。
「でも、一緒……」
「一緒では無いんだ」
「一緒……」
しかし、ポロにとってはどこまでも同じ物と言う感想らしい。まぁ味の感じ方は人それぞれなので、仕方無い部分もある。
でもやはり和えて漬け込んだマリネと刺身にソースかけて楽しむカルパッチョは、元が同じでも味わいが違うと思う。あくまで俺は、だけど。
「ん〜、どっちもサッパリしてて美味しいですぅ! これ、重い日とかでもするって入りそうです!」
重い日……? と思ったけど、妙齢の女性に毎月訪れるアレの事かと理解して俺は黙る。ポロは軽い方らしくて、ちょっと薬を飲めば日常に殆ど支障が出ないので俺もちょっと忘れがちになるが、本当ならポロも毎月苦しんでるはずなのだ。
地球だったら生理用品や薬も充実してるけど、この時代の異世界ではきっと凄く大変なんだろう。
お腹が痛くて重くて、なんもやる気が出ない日に料理なんてしてられないだろうし、料理を作っても体が受け付けない事もあるだろう。だから材料を適当に切って混ぜたら完成するようなマリネとカルパッチョを喜んでるんだ。
それにサッパリしててスルッと入るのは、恐らくオリーブオイルの効果もあるだろう。つわりが酷い人とかは野菜スティックにオリーブオイルをディップして食べるだけでも大分楽になるそうだから。
この情報は大将の店で一緒にバイトしてた大学生のお姉さん情報だ。
「エルン、重い……?」
「あ、食事中にする話じゃなかったです……! ごめんなさいですっ」
「これ、あげる」
ポロは服のポケットから小さな瓶を取り出して、エルンに握らせた。あれは牙羊族に伝わる秘伝の薬で、生理痛を和らげて出血なども抑えてくれる物らしい。テム婆さんがこの手の調合に明るいらしく、ポロが渡したそれもテム婆さん謹製の物だ。
村でたまに女性が会話してるのを耳で拾っちゃった事があるけど、めちゃくちゃ効くらしい。
普段からテム婆さんが用意してくれるから毎月気にしてなかった女性が、ある時テム婆さんと喧嘩しちゃって薬を貰えない状況になった時、地獄の苦しみを味わったそうだ。
そこでテム婆さんの薬がどれだけ効いてたのかを理解し、女性はテム婆さんに詫びを入れたとか。
見た目武闘派なのに事の経緯がインテリヤクザみたいな婆さんである。
多分、ポロが生来軽い方なうえにテム婆さんの薬を使うことで更に軽くなってるんだと思われる。
ところでなぁポロ、エルン。俺の目の前で生理の話しで盛り上がるな。とても居た堪れないだろ。ここにはエスプワープ家の壁は無いんだぞ。ガム爺と一緒に眺められないんだぞ。
「ふぅ、美味しかた」
「ですぅ! でも、ちょっと物足りないです……?」
「まぁそりゃ、マリネもカルパッチョも前菜料理だしな」
という訳で、もう少し料理を作る事にした。
この時点でもう結構、キャンプ地で注目を集めるつつあったが、ここからは更に加速するだろう。さっきまで火すら使ってないしな。
「今日はなるべく、エルンが作れそうな物に絞ってやるからな。ちゃんと覚えろよ」
「ですです! 頑張るです!」
やる気が充分なエルンを後目に、さっさと準備。焚き火台に火を入れて鍋を用意。そこにサラダ油を入れて、熱する。
「とりあえず、フィッシュチップスな」
マリネとカルパッチョを作る時に捌いたサーモンの骨部分。コレをそのまま熱した油にドーン。
迷宮鱒はこのダンジョンで取れるし、その中落ち付きの骨を揚げるだけなら簡単だろう。
生魚の使い方って事でマリネとカルパッチョを教えたが、あとは刺身となめろう、タタキくらいだろ。なめろうは味噌の用意が難しそうだから、今回はマリネとカルパッチョを選んだんだ。
オリーブオイルの用意は難しいだろうが、他の食用油でも代用出来るだろう。あとは香辛料さえ手に入ったらちゃんと作れる。レモン果汁もレモンがどこで取れるか分からないけど、あれば輸入すれば良いし無かったら米酢でもビネガーでも使えば良い。
「ウナギの蒲焼は教えたし、あと何が良いかな……?」
基本的に六層の魚はあんまり味が良くなかったので、四層のウナギとサーモンでレシピを教えるのが良いだろう。
「んー、オススメのフライは何個か教えるとして、やっぱ生食を請われてるんだから期待に応えたいよな」
まぁいいや、取り敢えずフライを作るか。
「ポロ、ご飯炊いてくれ。その間にフライ作るから」
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