一目惚れ。



 川の前に設営して滞在を始めた俺達。


 本来なら大河を渡って七層に行く以外には用事が殆ど無いはずの場所で、ゆったりとキャンプして釣りをする俺達は通過する冒険者に変な目で見られたりする。


 川を渡る冒険者は装備の防御力ゴリ押しで泳いだり、川の水を凍らせて船を作って渡ったり、飛行出来る眷属に運ばせたりと色々な方法で渡ってる。


 中でも一番多いのは飛行型の魔物を眷属化してるパターンと、収納系のスキル持ちを連れて来て普通に船を出すパターンだ。


 どうやらダンジョンのモンスターは正式に手順を踏めば確率で仲間に出来るから、結構な人数がチャレンジしてるらしい。


 魔力の精密な扱いに長けてないと失敗確率がえげつないから全員では無いけど、魔法使いならば結構な確率で眷属を連れてる。この世界では魔法使いがテイマーみたいな側面があるのだろう。


 ダンジョンで生まれたからこそ魔力の書き換えによる眷属化が出来るので、地上のモンスターを相手には出来ない手法らしい。最初に見付けた奴はノーベル賞ものだな。


 もちろん自分の能力を超えたモンスターは書き換えの難易度がバカ高いとエルンは言う。そりゃ殺さずに無力化してからのチャレンジなんだからそうだろうな。


 物理的にも問題なのに、強いモンスターの魔力書き換え自体も難解だから普通は無理だとか。と言うかそれが出来るなら十層で詰まってないと言う。そりゃそうか。


 十層で困ったら十層のモンスターを操って戦わせれば良いもんな。出来てないって事はそう言う事なんだろう。


 今も飛行型のモンスターによってコッチ側に運ばれて来た冒険者達を見ながらそんな事を思う。


 すると、見てた冒険者の一人と目が合い、そいつは視線を逸らしてポロを見た後に固まる。何事?


「………………ふ、ふつくしい」


 社長かな? 青い目の白い竜に言えよそれ。浮気すんな社長。


 呟いた冒険者は夢遊病のような足取りでコチラに来た。その場に居る仲間もソイツの異変に気が付いたのか、一緒にこっちへ。


「もし、お嬢さん…………」


「ん?」


 釣りをしてたポロが振り返ってソイツを見た。年齢は二十代の前半くらいで、金髪のサラサラストレートが眩しいイケメンの剣士だ。


 手入れがされて白銀に光る鎧は数多の傷が刻まれて年季が入っていて、いかにも歴戦の若き英雄って感じの男である。


「僕と、結婚して下さい」


「…………? 断る。ポロは人妻。浮気なんてしない」


 そしてプロポーズして撃沈した。テメェ何人の嫁を口説いてんだ殺すぞロリコンが。


「そんなっ……!?」


 当たり前の事なのにショックを受ける男。イライラするのにちょっと面白いのズルイだろ止めろよ怒れなくなるだろ。


「だ、誰がアナタのような可憐な女性を独り占めしているのです!? きっと騙されています! 目を覚まして僕と結婚しましょう!」


 ごめんやっぱ面白くないわ。


「独り占めしてるのは俺だけど? 何か文句でも?」


「む、誰だ! 僕と女神の会話に割り込むんじゃないぞ平民が! 下がり給え!」


「よし分かった戦争だな? 相手になるぞコノヤロウ」


 俺は精密使役で精霊達に指示を出して戻って来てもらう。もし本当に始まったら不意を突くために姿は消して。


「まったく、迷宮狼程度の眷属しか持てない雑魚が調子に乗るんじゃない。このネイド・アロンスターチェが下がれと言ってるのだ、下がり給え。由緒ある公爵家の次男に逆らうと言うのか?」


「次男ってつまり予備じゃん。そんなんで威張るなよ、付属品の癖に」


 ブチッと音がする。この世界の奴って煽り耐性無さすぎだろ。


 しかし男が腰の剣に手を掛けたところで、奴の仲間が後ろから頭を叩く。


「こらこら、何始めようとしてんの」


「一目惚れからの夫を無礼討ちとか、クソ貴族の典型みたいな事止めてよね。恥ずかしいでしょ」


「な、何をする無礼者! 僕は女神の夫を詐称するクズに天罰を──」


 淡い茶髪で筋肉質な僧侶が金髪の首根っこを引っ張って、その隣に居た魔法使い風の黒いローブを着た女性が杖で手を叩いて剣を離させた。


 その瞬間、男が腰に帯びてる剣の柄に何かが高速でぶつかって弾き飛ばす。やったのはポロで、水鉄砲ライフルを構えて静かに怒ってる。


「ポロの旦那様、バカにした。戦うなら相手になる」


 ポロの後ろにはもう既にフルサイズとなったラギアスとピーちゃん。いつでも来いと言わんばかりの布陣である。


「ちょ、ちょちょちょ待ってくれないかなっ!?」


「なんか透けてる竜種に、氷怪鳥っ!? シャレになってねぇってネイド! 今すぐ謝れバカ!」


「誰がバカだ! あんなの女神がお優しくて慈悲の心で誰でも慈しむだけだろう! だからこそ僕が目を覚まさせてあげなくては────」


「別に俺も良いぞ? やるならやるで」


 そして俺の後ろにもフルサイズになったアオミ、バハムート、リヴァイ、レヴィア、ケートス、カリュブが居る。他の主力メンバーは消えたまま奴らの周りに布陣してるので、始まったら一瞬で潰せる。


「おいおいおい……!」


「あ、あのね! この子ちょっとバカなのよ! 私達がよーく言い聞かせて置くから、そのおっかない子達を下げてくれた嬉しいなぁ〜、なんて…………」


「氷怪鳥に透竜だけでも無理だろコレ、他の透けてる竜種が六体? バカ言うなよ十層の最前線よりヤベーだろっ」


 ポロを諦められない金髪と、そのバカを必死に抑える仲間二人。いや、他にも仲間が居たらしい。飛行型のモンスターに順次運ばれてるメンバーが河岸で必死に他人のフリをしてる。


「ちょ、おい! お前ら見てないでバカ止めるの手伝えよ!」


「だから誰がバカだ!? アロンスターチェ公爵家をバカにしてるのか!?」


「え、あの、なんですか。知らない人について行っちゃダメってお母さんに言われてるんだ。声掛けないでくれないかな」


「手伝えって、何を? もしかして透竜に殺される手伝い? それとも氷怪鳥? 冗談は権力のデカさだけにしてくれる?」


「すげー、透竜と氷怪鳥とか初めて見たよ俺。触らせて貰えねぇかな? めちゃくちゃカッコイイぜ」


「そんな場合じゃねぇだろバカ! どう見てもウチのバカがやらかして相手さんがプンプンじゃねぇかよ! いったい何やらかしたんだウチのバカはっ」


「だから誰がバカだと言うのだ!?」


「「「「「「「お前だよ」」」」」」」


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