大河。
「…………まるで、海」
「そうな」
六層の川。目的地であるそこは、なんと言うか雄大だった。
「この階層の目玉です。ここを越えられるか否かが、中級者と上級者を分けるですぅ」
広大な六層フィールドをぶった切るように横たわる大きな川。それは大河と言って差し支えない規模の水源であり、俺の脳裏に浮かぶのはアマゾン河とかインダス河とかそんな感じのものだった。
デカい。ただひたすらにデカい。川幅どうなってんだよコレ。1キロくらいあるか?
日本では中々見ない光景に、荒々しい濁流で綺麗さの欠片も無い大河であっても俺は感動してしまった。
すげぇな、今から俺ここで釣りをしていいの? 日本に居たら考えられない経験だぞ。
とりあえず
「何で釣ろっかなぁ〜」
「…………んふ、釣りする時のカイト、かわいぃ」
微笑ましそうに見られて恥ずかしいが、今はそんな事よりも釣りである。
ここの魚は殆どが牙の凄い種類だとエルンに聞いたので、仕掛けは相応の物を用意する。リーダーに金属製のワイヤーを使った物を繋いで、噛み切られ無い工夫が大前提だ。
「餌にするか、ルアーにするか」
肉を餌にしたらピラニア型らしい
…………尿素入りのハンドクリームでも塗ってみるか? 釣れなかったら試してみよう。
ポロと一緒にシーバスロッドを出して釣り始める。まずは丘から攻めよう。
川の流れが早すぎるので浮きは使えない。天秤仕掛けで重りを普通よりもデカい奴でセッティング。
鈎には前に使ったアロの切り身が残ってたのでそれを刺し、そして投げる。
「いや予想してたげと早いよ!」
「入れ食い」
俺もポロも一瞬で当たりが入ってロッドを立てる。思いっ切りフッキングしたらリールを巻いて急いで寄せる。
信じられないくらい強く引き、釣りその物は普通に楽しい。ピラニアは本来大人しくて臆病な魚なのに、飢餓感によって凶暴化するとこうなるんだなって言う見本みたいな暴れっぷりを見せるそいつを岸まで寄せた。
ラバーネットでランディングすると噛み切られそうだから、口に直接フィッシュグリップを突っ込んでランディング。
「………………これが
顔が凄いイカつい。魚の目も血走るんだねって要らない情報を得たところで、同じく釣り上げたポロと見せあって比べる。
「…………ふふ、一発目は俺の勝ちだな」
「くっ、負けた……」
「お二人、楽しそうなのです」
ルリを撫でるエルンがちょっと呆れた目で俺を見る。なんでや、この為に来たんだから楽しいに決まってるやろ。
「ところでコイツ、食えるの?」
「美味しくは無いらしいのです」
つまり食えると。とりあえず生簀にボチャン。飢餓で共食いしないように在庫のアロを入れておく。ピラニアならこれで正気に戻って大人しくなるはず。
「後はナマズと、テッポウウオだっけ。鎧の魚もか」
「
堅鎧魚は防御力だけで言うとチビドラよりも硬いらしく、硬い鱗と衝撃を殺す事に特化した肉体のシナジーが凄まじいんだとか。
今はチビドラによる防御方法がメインだけど、それよりも硬い魚が居るなら手元に置きたい。
「やっぱ釣りって楽しいな。水の中って言う異世界に釣り糸一本で挑むのが堪らん」
「楽しくて、美味しい。素敵な娯楽」
「オマケに仲間も増えるしな」
俺は新しく成長した狼海竜を見る。カラスの食べ放題を経て少し具合が悪くなったような仕草をした後、一日掛けて脱皮したチビドラだ。脱皮して成長するんだねって思った。
狼海竜に成長したのは二頭居て、バハ達に比べたらまだ小さいけど身体付きはもう立派な竜。名前は先達三匹が神話の引用なので悩んだ。適当な名前は可哀想だと思ったから。
あとこのまま行くと狼海竜が増えて名前の管理も難しくなるなと思った。その内なにか対策をしなきゃ。
「カリュブ、ケートス、川に入って食事して来て良いぞ。釣り場は荒らさないでくれな」
新しい竜の名前はカリュブとケートス。ケートスはそのままだけどカリュブはカリュブディスが元であり、どちらも尊敬し敬愛するポセイドン様に関係する海の怪物だ。
カリュブディスは確かポセイドン様とガイアの娘さんで、なんか食いしん坊で色々したらゼウスに切れられてバケモノにされたらしい。
ケートスはポセイドン様の配下であり、なんか調子に乗った王国を滅ぼすために送り出された神獣である。
ぶっちゃけ神話から竜や神獣の引用するのは限界があるので、どうにかしたい。俺の知識量は大した事ないんだ。後はガルグイユとかレインクロインとかしか分からん。
「サーペントも怪しいしな」
ついでサーペントを眺める。一番大きい奴が遂に8メートルくらいになった。もうアレ立派な竜と言っても良いでしょ。竜って言うか龍。
「コイツも脱皮するのかな。まぁ蛇型はもう名前決めてんだけどさ」
一番デカいサーペントがもし本当に竜になったら、その時は
ザブザブと餌を食べに川へと入って行く精霊を眺めながら、俺はまた餌を投げる。取り敢えず気が済むまで釣りをするのだ。
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