大虐殺の後。



 俺は海が好きだが、血の海が好きな訳じゃない。


 だがこの場合はやむ無し。ルリをさらったのが悪い。


「ルリ、大丈夫かっ!?」


「心配した」


「くぅん、くぅん……」


 かなり強く体を握られて潰されかけたらしく、ルリは大分ダメージを受けてた。俺達は回復魔法なんて使えないのでアワアワしてしまう。このままじゃルリが死ぬ……!


「あの、魔法薬ポーションあるですよ?」


「流石荷物持ちポーター!」


 しかしエルンがファンタジーでお馴染みの不思議ドラッグを持っていた。流石だよベテラン荷物持ちポーター。いやホント、マジで君を雇って良かった。


 エルンはスキルを使ってポーションの瓶を取り出すと、死にそうなルリの口にそれを注ぐ。


「生きろルリ! 死ぬな! ステーキ食うんだろ!」


「ルリ…………」


「あの、中級薬を使ったので大丈夫ですよ……? 代金はちゃんと請求して良いです?」


 当たり前である。いくらでも請求しなさい。


「と言うか俺達もポーション買おう。エントリーではチビドラ釣る時にスタミナポーション買ったのに、それから存在を忘れてたわ」


 段々と良くなるルリを見てホッとす。もうこのもふもふが居ないと俺達はダメなんだ。絶対にポーションは買っておこう。


「エルン、その中級薬っていくら?」


「一つで黒貨二枚です」


 たっけぇな!? 良い物を揃えようって思ってたけど、中級薬でそれなら上級薬は無理か?


「アレですよ? 怪我なら中級薬が最高のものです。上級薬は絶命ほやほやとかに使って蘇生させるような薬なのです」


 マジか。この世界って蘇生まで行けちゃうタイプか。


「ちなみにダンジョンで落ちるドロップです」


「え、ドロップとかあるん?」


「ですです。ダンジョンでは倒した魔物に火をかけると魔力が収縮して、魔石になるです。そして極稀に魔石じゃなくて何かしらの道具になるですよ」


 もう既に一ヶ月近い時間を過ごしてるのに初めて知ったわ。てっきりモンスター素材で稼ぐのかと思ってたら、そういう仕組みなのね。


 まぁ死体は全部精霊に食わせてるし、ドロップは興味無いから良いけど。


「わぅん」


 回復したルリが吠えて、みんなの頬をひと舐めずつ。アオミやピーちゃんにもペロッとして、ピーちゃんは「ふんっ、全然心配してなかったけど?」ってツンデレ感出してる。


 もちろん死ぬほど心配はしてたけど。だって血の海の半分はピーちゃんによって凍らされてるもん。


「大事をとってここで少し休もう。回復したと言っても、すぐ動くのは良くないだろ」


 精霊に死体の処理をさせ、血の海はアオミに食べてもらう。ウミウシに変身したアオミがうにょうにょと血の海を啜りながらフィールドを回り始めた。


 必要なさそうだけど、ルリを抱っこしてグランプを出して中に運ぶ。レトリバーより一回り大きいルリを運ぶのは大変だけど、握り潰されそうだったルリを思えばなんて事ない。ステータスも上がってるし。


「良し、ゆっくり休むんだぞ」


 特別にベッドを貸してあげる。ポロも異存が無いようで、自分もベッドに乗ってルリを撫でる。


 俺はその間に外へ出て、大虐殺の後を見る。完全に私怨が混ざってたから酷い有様だ。


 わざわざ体を半分凍らせた子ガラス、と言っても全然子供サイズじゃ無い怪鳥だったけど、それをボコボコにされて動けない親ガラスの前でピーちゃんを筆頭に大型達がむしゃむしゃしたり。


 一際小さな子ガラスをサーペントとマナイーター、ソードキャットを集めてじわじわとむしゃむしゃさせたり。


 様々なことを見せ付けてからゆっくり殺した。「家族を失う痛みを知ってから死ね」と呟いて、最後はピーちゃんがプチッと。


 言うてボスらしいから、これでポロにも経験値が入っただろう。死体は精霊達が美味しく頂きました。


「おぉ、流石アオミ。めっちゃ綺麗になってる」


 ウミウシモードのアオミがうにょうにょした結果、大樹の頂上にあるすり鉢状のフィールドからは血の跡が綺麗さっぱり消えていた。


 ふと、ショップの経験値ウォレットを見てみる。ダンジョンに入ってからずっとモンスターを潰してるから凄いことになってるな。


 計46123。四万と六千か。もっと貯めたら全ステが15行くかも。


 綺麗になったフィールドで、海神の七つ道具オーシャン・ギフトの腕輪を散らして収納してた物を印刷する。ルリにステーキを食べさせてやらねば。


「か、カイトさん……」


「ん? どした」


「私も、ルリちゃん見てきて良いですか……?」


 なんだかんだ、エルンもルリが心配だったようだ。夜以外ならグランプに入るのを制限してないので好きにして良い。


 どうやらエルンはベッドルームが二人の愛の巣ってイメージがあるらしくて遠慮する傾向が強い。すぐに顔を赤くして逃げるのだ。


「もちろん。すぐ料理も運ぶから、ルリを可愛がってあげてくれ」


 胡椒を降ったところまでだった肉塊を炭火で焼き始める。ルリに食べさせるのは塩や胡椒を控えたプレーンなステーキだけど、もしかしたらモンスターって塩分入れても大丈夫だったりする?


 分からないけど、病み上がりなら大事を取った方が良いだろ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る