浮気。
「ごめんちょっと浮気する」
「ぐすん、しょっく…………」
茶番を繰り広げるのはダンジョン五層の草原地帯。
五層ずつダンジョンは姿を変えるらしく、そしてその境目では前の特徴と後の特徴が入り乱れるらしい。
六層以降は草原地帯らしく、五層では森系と草原が半々くらいのフィールドになってるらしい。
四層でたっぷりと釣りを楽しんだ俺達は速攻で六層に行こうとしたのだが、その五層にある草原で無視出来ない存在を確認してしまったのだ。
それは何かと言うと、牛である。
そう、牛である。
種類で言うとバイソンとかその類になるのだろうが、エルンに聞けばかなりの高級食材であり、みみっちい量の串焼きでも銅貨五枚はくだらないとか。
ああ、初日に見た串焼きってそれか。
俺は魚が好きだ。そして陸より海が好きである。でもそれは牛肉が嫌いと言うことにはならない。牛の肉も普通に好物である。
「乱獲しよう」
「牛に、旦那様を寝盗られた。よよよ…………」
「寝てねぇし取られてねぇ。ポロは世界で一番美味しいよ」
「…………ぽっ」
茶番は置いといて、俺は眷属に命じた。多分初めて強く命令した。
「狩り尽くせ」
手持ちで戦える精霊は全て投入した。五層に出るモンスターだけあって普通に超強いのだろうが、実在と非実在を行き来して攻撃を躱す幽霊みたいな存在に群がられた牛は悲惨だった。
「…………毛長牛がこんなにあっさりです」
「はっはっはっはっ! 牛肉祭りじゃぁあ!」
精密使役で丁寧に狩らせる。牛が強過ぎてソードキャットの胸びれソードが弾かれても、眷属強化をフルブッパして無理やり動脈を切らせる。
サーペントも首を噛み千切って、スカーレットのブレスも首に掠るように撃たせてとにかく血抜きを兼ねた殺し方を徹底させる。
「ピーちゃんさん! やっちゃってください!」
狩られて血が抜けた牛を片っ端からピーちゃんが冷やしてくれる。血を抜いて身を冷やす。これが出来てれば後はどうにでもなるから。
狼海竜達が冷えた牛を俺の前に運び、俺はそれを淡々とインベントリに入れていく。確実にワンスタックは集めるぞ。なんならエルンのスキル分もたっぷり狩るぞ!
「今日はシンプルにステーキじゃー!」
その一時間後。俺は牛なんて捌けない事を思い出して絶望した。
「神は死ん、…………いやポセイドン様が死ぬなんて有り得ないから、なんか適当な神、アルマで良いやアルマは死んだ」
「それ信者に聞かれたら大惨事です!?」
しかしエルンが解体出来ると聞いて歓喜した。神は生きてた。
「エルン。君を雇って良かったって心から思うよ」
「べ、別に地上に戻ればギルドで解体して貰えるですよ?」
「それまで待てないだろ! 今食べたいだろ!」
アオミは相変わらずのほほんと頭の上でうにょうにょしてる。この子が参加すると肉が最初からミンチになるので仕方ない。
透竜は見た目とは裏腹に完全なパワーファイターらしいので、下手な手加減とかが苦手なのだ。見た目がウミウシってめちゃくちゃトリッキーに戦いそうなのに、毒持ちって特性以外はマジで脳筋一色。
体がぼぼ水なので相手の攻撃が効かず、だけど透竜からの攻撃は当たるって言うシンプルに強い能力でぶん殴って敵を殺す。
倒すには全身の水分を一撃で消し去るくらいの大火力か、透竜が魔力を使い切るまで耐えられる耐久のどちらかが必要。ピーちゃんと戦ったらどうなるかと言えば、相打ちくらいじゃねってお互いが認識してるっぽい。
人が定めた序列では、透竜の上に居るのは透竜の攻撃に耐えられる奴か、透竜を消し飛ばせる火力を持ってるバケモノ揃いであり、それ以外は本当に歯が立たないそうだ。歩くモンスター図鑑みたいに詳しいエルン情報だ。
「ウチの子はルリ以外みんな非実態系だよなぁ」
ピーちゃんも体が全部氷って言う、どちらかと言えば精霊っぽい存在だ。その点で言うとアオミと似てる。
そんな事を考えてるウチに狩りが終わった。
「喜べルリ。今日はたらふく肉が食えるぞ!」
「わぅん!」
今ルリはウチの子たちの中ではか弱い弟的なポジションに居るので、ちょっと甘えれば色々して貰える。最近はラギアスの背中に乗って空中散歩を楽しんでる姿を目撃したぞ。
「じゃぁエルン、解体よろしくな!」
「…………えっ、今からです?」
「当たり前だよなぁ?」
特別手当は出すからよろしくな。
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