氷の聖女。



 臨時収入という名のトラブルはあったものの、俺達はダンジョン攻略を開始した。


 ポロは最終的に『氷の聖女』とか言う二つ名が発生し、しかしポロは例の自称大聖女の印象があった為に嬉しくなさそう。


 ピーちゃんがそれに気が付くと大惨事になりそうだったから、俺がポロに「確かにポロは聖女に相応しい女の子だよな。優しいし可愛いし、まさに俺の聖女様だよ」と褒めると、デレデレしてくれたので良し。


「…………あ、あっという間に私の日当分稼がれたですぅ」


「流石に最上級の魔物が天然の魔道具なんて作ったら仕方ないだろ」 


「ん、ピーちゃんは賢い。ありがと、ピーちゃん」


「ぴぇぇぇえええ!」


 興奮し過ぎて踊り狂うインコみたいなテンションになってるピーちゃん。もう本当に嬉しそうにポロにスリスリしてる。


 邪魔だった冒険者達も捌いて散らし、エルンの案内で次の階層を目指す俺達。でも散らしたと言っても次の階層までのルートはそう多くないので、同道してる人はそこそこ居る。


 皆が一様にピーちゃん謹製の氷を袋に入れて大事そうに抱えてる。


 本来、この熱気をどうにかする魔道具もあるそうなんだけど、かなり高いし維持費も大変らしい。最前線の最上級達がここを通る時に使うくらいが関の山だそうだ。


 エルンはさくさくと進んで、出て来るモンスターも眷属が瞬殺するので快適だ。


「カイト、ここは皆の食べ物が豊富」


「そだな。精霊育てるのに良いかも」


 チビドラが成長すれば狼海竜が増えるし、赤バススカーレットなんかのメイン火力も成長すれば強くなる。


 今居るスカーレットで最大のサイズが4メートルであり、そんな大きさの奴は釣った記憶が無いので精霊化した後に成長したのだろう。


 もしかしたら、人が確認してないだけでスカーレットも中型や大型の竜になるのかもしれない。あくまで大聖女が言ってた二十五種とは、人が確認出来てる種類に過ぎない。


 海ってのは現代の地球ですら全貌を解き明かせない程の深淵だ。未確認の竜が居ても不思議じゃない。


 他にも戦力となるサーペントやソードキャット、マナイーターに倒したモンスターをガンガン食べさせて行く。大きく育てよお前ら。


「快適ですぅ〜!」


 大きな胸をブルンブルンさせて喜ぶエルン。近くを歩いてる男性冒険者の視線も釘付けだ。うん、これはパークラですわぁ。


 ギルドも持て余すだろうな。紹介したらパーティが潰れちゃうようなロリ巨乳なんて。誰に斡旋すれば良いのか分かんないよ。


 エルンも今まで紹介された仕事は大体が女性パーティとからしい。ギルドめっちゃ気を使ってんじゃん。いや、死んだ親が凄腕だったらしいから、義理立ての面もあるのかな?


 道行みちゆきが快適過ぎて余計な事をつらつらと考えてしまう。もう少し気合いを入れた方が良いだろうか。


「…………そう言えば、アオミは食べないのか?」


 頭の上でうにょうにょしてるアオミに聞くと、うにょうにょと返事をしてくれた。でも返事の内容が分からないので意味が無い。


 精密使役を使うと簡単な感情だけなら読めるので、それで一応解読してみる。


 なになに、雑魚食べるより、俺の魔力の方が美味しい? …………お前そんな事してたの!?


 知らぬ間に魔力を食べられてた俺である。びっくりだ。


 なになに、余った上澄みだけ? ああ全回復した後の余剰分だけ食べてるって事か。それなら良いか、エコだもんな。




 エルンの案内で進むこと、八時間。かなりの時間を使った俺達だが、やっと次の階層へと行ける入口を見付けた。


「最短で来てコレなのか。めっちゃ大変じゃん」


「ですです! だから道を網羅して荷物を管理する荷物持ちの存在は大きいのです!」


 二層への入口は、ダンジョンの入口とそっくりの穴が空いた岩山。その周辺には木が無くて、ぽっかりと空いた広場になってる。


 そこには入口正面だけは人通りを邪魔しないように空けてあるが、他の空間には所狭しとテントが並んでる。確かに片道八時間なら野営を挟む必要があるな。


「カイトさん、どうするです? 二層の出口も同じような形になってるですよ」


 つまり、降りた先でも野営地があるんだろう。どっちで休むかを聞かれてるのだ。


 どっちでも良いと言うことなかれ。ここは別に安全地帯じゃないので、似たような野営地だとしても安全性が違うのだ。


 昼も夜も普通にモンスターが襲撃してくる場所であり、一層よりも二層の方がモンスターは強い。なら一層で休む方が安全なのだが、その分見た通りに場所が無い。


 バルジャーレは強い冒険者の都というイメージがある。けど弱い冒険者やダンジョン探索が苦手な冒険者だって当然居るので、単純な強さで言えばもっと深く潜れるのに一層でチマチマ稼ぐ人もいるらしい。


 他にも普通に二層ではやって行けない冒険者とか、二層へは明日行くから今は一層でと休む人も居る。だから場所の取り合いが激しく、少なくとも大型のグランプを出して圧迫したらトラブルになりそうだ。


「二層で休もう。ここよりはマシなんだろ?」


「はいです。密度が半分くらいになるですよ」


 と言う訳で岩山の穴に入ってスロープを降りる。どの階層も基本的にこの形で下に行くのだとか。


 スロープを降り着るとまたジャングル。微妙に植生が違う気がするけど、ジャングルである事には変わりない。


「さて、設営して飯食って寝るか。エルンは寝床どうする? 見張りは精霊がやってくれるけど」


「…………えと、二人はやっぱり、あの車はです?」


「そうだけど、エルンは無理だぞ? それとも、夫婦が色々してる横で寝たい? 絶対寝れないと思うけど」


 夫婦の営みはもう日課ですらある。俺とポロはとても激しく運動会をするので、出来ればご遠慮願いたい。


「…………ポロも、見られるのはちょっと」


「あうあうっ、見ないですぅ〜!」


「それとも、混ざる……?」


「混ざッ……!?」


「いや混ぜねぇよ」


 とんでもない冗談を言うポロの頭をチョップする。俺はハーレムとかマジで興味無いからそういうルートは要らないの。


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