試験。



「良いかお前達! 迷宮と言うのはな────」


 ダンジョン試験は、まず講習を受けるところから始まる。


 広場にて「そうです。私が試験の教官です」って見た目のスキンヘッドが現れて、俺達以外にも居るダンジョン講習受講者達を纏めた。


 そして広場の隅で、ダンジョンに潜って行く冒険者や帰ってきた冒険者達から生暖かい目を向けられながら、口頭による講習を受ける。


 ダンジョンの簡単な成り立ち。「よくわからん! 以上」と説明を受け、その後はダンジョンでやるべき事、やっちゃダメな事なんかを簡単に教えられる。


 そのあとは教官に試験をして貰い、合格が出ればタグが貰える。


 試験内容は受講者が選べ、戦闘能力や支援能力、石膏や知識や運搬等々、ダンジョンに必要な能力だったら何でも良い。


 俺とポロは戦闘能力で試験を受けるつもりだが、試験の方法も様々。教官に模擬戦をして貰っても良いし、教官に自分の魔法や技などを披露しても良い。


 とにかくダンジョンに潜ってもやって行けるなと思われたら合格だ。何とも緩い試験だが、その分だけ教官の匙加減に依存する。その代わり、教官が認めたら飛び級も有り得る。


「次! そこの小さいの!」


「む、ポロは小さくない。ちょっと可愛い大きさなだけ」


「そうか。良いから前に出ろ可愛い大きさのお前!」


 講習が終わって試験が始まり、もう五人くらいが試験に臨んだ。五人中四人が戦闘能力で試験し、三人が通って一人が落ちた。飛び級は無し。五人目は魔法を見せて合格貰ってた。


 六人目には俺より先にポロが呼ばれ、小さいと言われた事を訂正したらちゃんと汲んでくれる教官は良い人かもしれない。


「お前は何で試験する」


「戦闘能力。加護と原始魔法、魔法を見せる」


「加護持ちか。よし始めろ」


 ポロはまずラギアスを呼び出して操る。この時点で教官は目を見開いてたので多分合格。だがまだ序の口なのでポロは続けた。


 ライフルを呼び出して射撃。結界を作って防御を見せ、水魔法で簡単な攻撃を披露した後、ピーちゃんをフルサイズで呼び出した。


「氷怪鳥だとっ!? 最上級を手懐けてるのか! 七層まで行ってよし!」


 教官も、受講者も、ダンジョンに行き来する先達も例外無く度肝を抜かれたピーちゃん降臨。ドラゴンと殴り合う鳥は伊達じゃないらしい。


 ポロは教官から七層まで行けるタグを貰って帰ってきた。ぶいってしてるの可愛い。


 呼ばれる人はランダムらしく、俺はポロと一緒に順番を待った。


 結局俺は最後に呼ばれたが、教官はポロと一緒に居る俺をある程度認知してたらしく、もしかしたらワザと残されたのかも知れない。


「加護持ちの娘と一緒に居るお前! お前は何で試験する!」


「自分も戦闘能力で。連れと同じく加護と、あと原始魔法を」


「お前も加護持ちなのか!? とんでも無いな! よし始めろ!」


 本当なら能力全部晒すとか有り得ないんだが、ポロは出し惜しみ無しで飛び級しちゃったので俺も同じようにする。


 主力級の精霊を全部召喚して会場を埋め尽くす。インベントリから適当な薪を取り出して空中に投げてパフォーマンス。スカーレットのブレス、サーペントのバイト、ソードキャットの斬撃。


 そして最後にアオミを出してフルサイズに。召喚を見せ終わったら今度はライフルで投げた薪を撃ち、鮫丸鉄時ふかまるかねときで投げた薪を斬り、やれる事を大体見せる。


「お前ら揃ってバケモノか! なんで透竜なんて連れているんだ、この非常識め! 七層まで行って良し!」


 ポロよりも強そうに見える展開にしたのに七層って事は、八層がそれほど地獄か、もしくは飛び級の限界が七層なのか。


 俺が最後だったので試験は終わり。飛び級をしたので目的地にはすぐ行けそうで安心した。


 最悪は試験が通れずに釣りが出来ないかも知れなかった。禁断症状が危ないぜ。


 そうして、ポロと並んでさぁ宿に帰ろうと思った矢先、俺達は冒険者に囲まれた。


「なぁ君たち、良かったら俺達と組まないか!?」


「いいや、組むなら僕達だね。見たところ後方から眷属を出せるんだろう? 僕達は前衛が厚いよ!」


「ふっ、バカね。男所帯にこんな可愛いお嬢さんを任せられる訳ないじゃない。私達と組むのよ」


 わらわらと囲まれ、勧誘合戦が始まる。どう見ても目当ては眷属だが、確定でヤバい戦力なのだから確保に走っても仕方ないだろう。


 囲まれて困惑してるポロを見てピーちゃんがイライラしてるのが分かる。ピーちゃんポロの事好き過ぎるだろ。


「あー、悪いけど誰かと組む気は無いんだ。迷宮に来たのも一攫千金とか攻略とかが目的じゃない。…………それと、うちのピーちゃんがそろそろ切れそうだから離れた方が良いかも。あぁピーちゃんは氷怪鳥の事ね」


 ザッ、と周囲に空間が空く。氷怪鳥が切れると聞いても勧誘を続ける猛者は居ないらしい。


「だ、誰とも組まないのかい?」


「んー、そうだな。目的の場所まで案内してくれるベテランを雇うくらいはすると思うけど、一緒に迷宮の最深部に行こうぜ、みたいな事はしないな。興味無いし」


 強いて言うなら、経験値を稼いでもっとレベルを上げたい気持ちはある。でもそれは釣りをしながらでも出来る事だ。


「悪いね。迷宮の中で会ったらよろしく頼むよ。その時に何か困ってたら手を貸すこともあるだろうと思う」


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