郷に従う。
迷宮都市に来て三日が過ぎた。
このふざけた都市は物価もふざけていて、王都で一泊金貨一枚で使えたグレードの宿が一泊で黒貨一枚とか言う超ぼったくり。
しかしそれでも都市が回ってるんだから、迷宮に関わるとそれだけ儲かるのだろう。
初日は宿探しだけで日が暮れてしまったが、今日は冒険者ギルドに行って情報を集めよう。
「なんならダンジョンにグランプ持ち込んで中で寝泊まりする方が快適まである」
「良い考え。早速そうする」
この宿は三日ほど取ってあるけど、荷物も置いてないし適当に利用したらそのままチェックアウトで良いな。
この都市にはここ以上の超ハイグレードな宿もあるらしいけど、使うには値段が馬鹿らし過ぎて止めた。
そこで初めて黒貨の上を見た。
その価値なんと、黒貨百枚分。一般人には使う機会どころか見る機会すらないって聞いてたのに、この都市では使われるのだ。
最上級冒険者くらいになれば普通に持ってるらしい。最上級グレードの宿は紅貨一枚からだ。アホくさくてこっちにしたのだ。
物価高過ぎんよこの都市。
なんと言うか、この都市でだけバブルが膨らみ続けてる感じと言えばいいか。危険な匂いしかしない。
一つだけ良かったことは、物流の最適化が目的なのか大通りがかなりスッキリしてること。どういう事かと言えば、人と馬車が入り乱れてないのだ。
竜車に乗って冒険者ギルドまで行くのに、前を行く馬車が一回も止まらないし歩行者も飛び出してこないのでストレスフリーだった。
冒険者ギルドは他と違って石造りの砦みたいな作りだった。三階建てなのは同じで、中のシステムも同じだけども物々しい感じだ。
いつも通りに券売機お姉さんに要件を伝えて案内してもらう。
「初めて来たから、勝手が何も分からない。ダンジョンに入る前にした方が良い事とか必要な申請とか、あるなら全部教えて欲しい」
「かしこまりました。ではコチラの木札をお持ちください。対応のカウンターでご案内します」
そしていつも通りに呼ばれてカウンターへ行く。
どうやら都市ではギルドタグとは別に
そのダンジョンタグが対応してる階層までは潜って良いけど、それ以上はダメってルール。
タグは試験を受けると発行されて、一層ごとに別のタグがある。
現在は十層が最下層で、最上級冒険者でも苦戦してるとか。
聞いた感じだと一層だけでも東京都くらいの広さはありそうで、深く潜るならめちゃくちゃシビアなルート管理と物資管理が必要になるとか。
ちなみに俺の目的地であるダンジョンにしか居ない魚は四層の湖と六層の川に居るらしい。二箇所、あるだとっ。
「了解。…………ちなみに、下級でも試験にさえ受かればタグは発行される?」
「もちろんです。最初はダメだったんですけど、等級は低くても物資の管理や索敵などが上手い人を連れていくと生存率が上がったという記録が上がってからは、等級と階層許可を結びつける制度は撤廃されました」
ふむ、ありがとう昔の玄人。お陰で助かった。
「じゃぁとりあえず一層までの試験を頼みたい」
「承りました。少々お待ちください」
手続きをして、木札を渡されて対応終了で帰れと言われる。どうやら試験は別会場でやるそうだ。
「おいおい、そんな子供を連れてダンジョンかぁ? お遊びなら帰れよ坊主〜!」
ギルドを出ようとすると、酔っ払いに絡まれる。席から立たずに口だけ使えば良いものを、わざわざ立って俺達の行く手を遮るように絡んでくるからタチが悪い。
「なぁ、面倒だからどっか行ってくんね? 俺達がどこに行こうとあんたには関係ないだろ?」
「あぁ〜? てめぇ、親切で言ってやってんのによォ〜」
顔面真っ赤っかの男は完璧に絡み酒らしく、周りの冒険者達もいいぞいいぞと囃し立てる。民度低っ……!
「なぁ、そこのシラフのお姉さん。俺がコイツぶっ飛ばしても大丈夫? 面倒な事にならない?」
「あぁっ!? 誰をぶっ飛ばすってぇ!? 頭に変なモン乗せやがってよぉ」
相手が切れ始めたので穏便には終わらないだろうと思った俺は、別の席で飯を食ってるお姉さん冒険者に声を掛ける。
「大丈夫だよ坊や。ギルド内での争いを外に持ち出す奴ァこの都市で生きて行けないからね。ぶっ飛ばせるならぶっ飛ばして終わりさ。それがバルジャーレの流儀だよ」
若そうな見た目とは裏腹に渋めの声で答えてくれたお姉さんは、そう言った後は興味無さそうに食事を再開した。
「なるほど、流儀ね」
「この糞ガキがぁ……、舐めてんのかぁ?」
だったら俺も、号に入っては郷に従うか。
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