迷宮都市バルジャーレ。



 川の近くにあった野営地でリフレッシュとフィッシングをしてからまた一週間ほど。


 俺達は目的の場所、迷宮都市バルジャーレに到着した。


「ふんふ〜ん♪︎」


 ポロは俺が買って渡したスマホを海神の七召命オーシャン・オーダーで契約して神器化した後、使い方を教えたら俺や眷属達の写真を沢山撮ってご満悦だ。


 テムテムに帰ったらガム爺とテム婆に見せてあげるんだと言ってニコニコしてる。なんてピュアなんだ俺の嫁。


 試したところ、スマホはちゃんと通話も出来た。流石に電話は無理だったけど、メッセージアプリを使えば何とかなった。


 アプリのダウンロードはどうやったかと言えば、このスマホなんと地球のネットからデータを受信出来るのだ。


 受信だけで送信は無理なんだけど、それでも充分過ぎる。特にポロのスマホなんて自動的にポロが知ってる言語に翻訳する機能付きで、昨日なんか動画サイトで毎日投稿系の企画系配信者の動画を見て笑ってたのだ。


 その最後に「カイトの故郷を知れて嬉しい」とか言われたら、愛おしくて頭パーンってなるよね。


 そんな訳で、ポロは日本のネットで色々勉強出来るようになって更に賢いレディへと進化した。


 そして地球に溢れてるアッハーンな知識も検索して色々と俺にやってくれたりした。もう神かよ。


「スマホ楽しいか?」


「たのしい。カイトの故郷で、みんなが持ってるのも納得の道具」


「でもスマホばっか見てたら寂しいから、俺にも構ってくれよな」


「もちろん。ポロはカイトの物だから」


 そっと馭者台で俺に頭寄せて体重を委ねるポロ。ずっと新婚気分で脳がポカポカする。


 そのポカポカ脳でバルジャーレの入場列に並び、順番を待つ。


 迷宮都市は迷宮ダンジョンから産出される資源の販売で成り立ってる都市なので、都市を出て行く人も入る人も多くいる。


 当然、入場待ちの列は長く人も多いので、ラギアスが曳くグランプは超目立ってる。


 誰も彼もがグランプの少し上を見てる。そこでキャリーハンドルに前脚を引っ掛けて空中で揺蕩うラギアスの存在を凝視してる。


「目立つね」


「当然」


 馭者台に座ってるだけ。手綱すら握ってない俺達もそこそこ目立つ。なんなんだアイツらはって顔で見られてる。


 順番がやって来て対応して貰う時も、門番に仰天されながらの入場だ。


 ただモンスターを使役するだけなら冒険者にも結構居るらしくて、止められる事は無い。中には大型の獣を手懐けて専用の獣車を曳かせてる人も居るのだとか。


 なので珍しくてもその類なんだろうと思われて注意はされない。


 都市で暴れちゃダメとか常識の範囲内だし、武装集団ぼうけんしゃを都市に入れてる時点で治安がどうとかって次元じゃない。


 バルジャーレの中は王都バグラに近い賑わいと建築様式だったが、一つ違うとすれば人民か。


 見渡す限りに冒険者ばかり。圧倒的に一般人が少ない。


 なんなら、その辺の屋台をやってるオッサンもデカい剣を背負いながら串焼き肉を売っている。いやお前ダンジョン行けよって突っ込みは誰もしないのか?


「すげぇ街だな」


「…………なんか、へん


 言いたい事は分かる。ここまで一般人が少なくて都市が回るものなのか? いや実際に回ってんだから回るんだろう。


 その違和感が俺達にいびつさを見せ、変だと思わせる。


「っせぇなヤんのかゴルァ!」


「ったんよボゲゴラァ!」


 しまいには、屋台の親父を相手に喧嘩し始める冒険者とかも居る。ああなるほど、そりゃ屋台やりながら大剣も背負うわ。


 今、理解した。一般人が少ないんじゃない。一般人だと生きていけないから皆が冒険者になってんのか。


 剣を背負って串焼き作ってるオッサンも、元は一般人なのかも知れない。でも冒険者に絡まれたら大変だから力をつけて武装してる。


 でもそれならいっそ冒険者やれば良いじゃんと思ったけど、良く見たら串焼きの値段がハンパない。一本で銅貨五枚? 馬鹿なの?


 銅貨は五百円から千円くらいの価値だ。つまり串焼き一本で二千五百円から五千円くらいの値段と言うこと。


「………………こりゃ、慣れるまで釣りどころじゃないな。来なきゃ良かったかも」


「カイト、頑張ろ」


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