それよりも天ぷら。



「ねぇ聞いてるのかしら!? さっさと退きなさいって言ってるのよ! この野営地は私達が使うわ!」


 なんか、この、なに? 俺は今の状況をどう捉えれば良いのだろうか。


 俺にがなり立てる女は見た感じ十代後半の若い奴だ。見た事のある白ベースの法衣は恐らくアルマ教会の者だろう。


 夕日に赤く反射する髪は色の識別が難しいが、多分白か銀かな。ストレートで腰まで伸びたスーパーロング。


 周りには護衛の騎士ですって感じの奴らとか、明らかに手下ですって感じの神官とかぞろぞろ居らっしゃる大所帯で、そのトップがどうやら目の前の煩い女らしい。


「…………ポロ、そこの水取ってくれるか? 天ぷら粉を溶くから」


「あい」


「ちょっとッ! 無視するんじゃ無いわよ!」


 せっかく目の前が川なんだから大自然の中で星と川を見ながら夕食を食べようと思ったのがいけないのか、本当になんか意味分かんないくらい絡まれる。


 せっかくグランプの前にテーブルとかコンロとか設営したのに、ちょっと後悔してきちゃったじゃん。


「……あのさ、なに? 見ず知らずのクソ女に退けって言われて退く奴居ねぇだろ。まず名乗るくらいしろや。どれだけ教育がなってねぇんだよ」


「なんですってぇ!? この平民がぁ!」


 平民が、というからには貴族なのか。相手が立場ある人間だとこっちは加護持ちって事実を活かせるので逆にありがたいが。


 おん? 良いのか? 神罰食らうぞ? って言うと権力者は引き下がるってばっちゃが言ってた。ばっちゃの名前はグリンって言うんだけど。


「この私に名乗れですって!? 大聖女の顔も知らないなんて随分な田舎者ね!」


「ごめんな。田舎の聖女なんて覚える暇無いんだよ。都会派シティーボーイだからさ」


 天ぷらの準備をしながら軽口で煽り返すと、ふいに「ブチッ」と何かが切れる音がした。


「………………もう良い、殺すわ」


 そう言った女の背後に魔法陣が走り、一瞬で真っ白い巨大な竜が召喚された。何やら見覚えのあるエフェクトだ。


「コルト、殺りなさい」


「ゴァァァアアアアッッ!」


 二足で立って前脚を振り被るその竜は、いかにも西洋竜といったシルエットをさてる。振り下ろされようとする前脚を見ながら俺は流石に観察していた。


「「「「ルグゥァァァアアアアアアアアッッッ!」」」」


 そして振り降ろした前脚ごと白竜はウチの子達にぶっ飛ばされる。


「────なッ、なんですってっ!?」


 驚く自称大聖女は、ぶっ飛ばされた白竜を目で追ったあと、向き直って反撃の原因を見る。そこには半透明の狼海竜が四体。ちなみに精霊って実は薄らと光ってるので暗くなると凄く見易くなる。


「あ、あなたも竜をっ!? …………ふんっ、でも良く見たら最弱の海竜じゃない! 私のコルトの方が格上よ!」


 自称大聖女が立ち直った事に呼応したのか、吹っ飛ばされた白竜も起き上がる。でも多分何人か確実に白竜の下敷きになって死んでると思うよ、あんたの手下。


「あ、ちょ、砂埃が入る……」


「ボウルに結界」


 ナイスだポロ。これでバカが暴れても天ぷらは作れる。ちなみに竜の攻撃に耐えられる程の出力は長く出せないそうなので、このままウチの子に任せてしまおう。


「不意打ちで調子に乗らない事ね! 人類が確認してる二十五種の内、最弱の狼海竜如きが! 私のコルトは序列八位の天竜なのよ!」


 へぇ、八位なんだ。凄いねぇ。


「殺りなさいコルト! あの雑魚を蹴散らすのよ!」


 こっちには五位が居るんだけど。


 そして序列ランキング上位とバチバチに殴り合う鳥さんも居るんだけど。


 まぁ無くても眷属強化あるからボコれると思うけど。


 そんな事を考えてると、精密使役で俺の考えを受け取って『許可が出た』と思ったのか、頭の上でうにょうにょしてたウミウシが形態を変更し、ボコボコと泡立って巨大化を始めた。


 それに伴ってポロの肩に居たインコサイズのピーちゃんも、バキバキと氷の体を肥大化させ、その可愛い肩から飛び降りた。


「────えっ、あっ、なん……?」


 そうして登場する、二十五種居るらしい大型竜種の第五位と、それに比肩するバケモノが降臨した。


 アオミは性格が緩いから良いけど、ポロを含めて田舎者だとか罵った女に対してブチ切れてるピーちゃんがヤバい。


 俺達には一切の効果が無いが、もう既に周辺はパキパキと凍りつき始めている。


「と、透竜……? それに、氷怪鳥っ」


 ゆったりと揺れるように空中に揺蕩うアオミと、視線だけでも殺せるかチャレンジしてそうなピーちゃんが、ずいっと女の方に向かう。完全な格上二体を前にした白竜も可哀想な程に怯えてる。


「ポロ、ご飯どんな感じ?」


「ん、炊けてる。もう揚げる?」


「もち。さっさと食おうぜ」


 ピーちゃんが「やんのか? お?」とメンチを切る中で、俺とポロは調理を続ける。身長が足りなくて台座を使うポロが可愛いんよ。


「なんで、そんな、嘘よっ…………」


 。当然、アオミとピーちゃん、バハムート、リヴァイ、レヴィア、ラギアスがを食べようとも止めはしない。


 だって食事の時間だもんね。そんな事より天ぷら食べようぜ。


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