楽しみ尽くした。
グランプが完成した事で、俺達には宿が必要無くなった。
正直俺も知ってる知識を総動員したし、工房の連中も同じだったはず。そのせいで下手な宿よりもずっと居心地が良い車になったし、何よりベッドの性能が段違いだ。
毎日毎晩楽しむポロのご機嫌具合を見れば、どれほど差があるかは一目瞭然。
そんな俺達は、遂に依頼無しで王都を出て湖の野営地に住み込み、一ヶ月程の時間を釣りに費やした。資格剥奪されない程度にチマチマした依頼は受けてるけど。
もちろん依頼を受けてるグリンとゼブンも一緒だ。中には泊めないけどね。
途中でしれっと神殿に行ってきた二人は見事スキルが生えてたと大喜びだったので、依頼もニコニコの満了である。
普通はスキルなんて人に教えないらしいが、二人は何が生えたのかを俺達に教えてくれた。
「俺達な、どっちもまず海の獣を手に入れたぜ」
スキルは普段の生活に於ける行動や実績の蓄積が昇華する物らしい。そして二人は一ヶ月ずっと精霊やアオミと遊び倒してた。
多分その効果で生えたのだろう。今までに潜った修羅場も関係してるのかも知れない。
ただ残念な事に、召喚に立ち会ったけどピーちゃんやアオミ級のバケモノは出て来なかった。
グリンの相棒は水狐と言う水棲の狐。水魔法が得意で、水色のふわふわ毛並みの下には地味にエラも備わってるモンスターだ。エラ呼吸も肺呼吸も出来るらしい。
モンスターにも冒険者みたいな等級があるらしく、水狐は中型犬サイズなのに上級モンスターだそうだ。めっちゃ可愛い。
くぅんくぅんと俺に擦り寄ってくる水狐、名前をプニルと名付けられた子を撫で撫して、ゼブンの相棒を見る。
ゼブンが呼び出したのは、………………ウミウシ。またかよ、と思う事なかれ。今度は透竜じゃなくてちゃんとウミウシ。
いや違うな。ちゃんとしてないな。見た目はミスジアオイロウミウシとそっくりなんだけど、種族的にはアレだ、触手系モンスターの筆頭でえっちなモンスターの筆頭ローパー君。
ミスジアオイロウミウシはお尻の方に触手みたいな突起を持ってるんだけど、それをぐにょ〜っと伸ばして攻撃出来る上級モンスターらしい。
プニルとは随分と違う形になったが、ゼブンはアオミと遊びまくってウミウシ大好きになってたからむしろ喜んでた。
ミスジアオイロウミウシの名前はペニャに決まる。可愛い名前だな。
海の獣以外にも『斬裂』とか『瞬撃』とか、カッコイイ名前のスキルが生えてたらしいけど、一番は可愛い相棒を得たことに見てた。二人ともマジで死ぬほど喜んでる。
お陰で報酬は黒貨十枚追加で貰って五十枚になった。凄い金額だよなぁ。まぁほぼ確定のスキルガチャが引けると思えば安いのかも知れない。
そうして俺達夫婦は王都を楽しみ尽くして、…………いや湖を楽しみ尽くしたんだな。言うほど王都行ってねぇや。モンスターの情報が欲しくてギルドの資料館には立ち寄ったし、図書館も探して調べ物したけど、それくらいか。
その結果、言うほど水棲モンスターの情報は多く得られなかったけど、ゼロでも無かったと言う微妙な結果に。
「兄貴! 連れてってくれよぉ!」
そした王都を旅立つ事になったのだけど、新しく増えた舎弟がへばりついて来た。
「ええい離れろ暑苦しい! 男に抱き着かれる趣味はねぇ!」
「え、じゃぁ私が……」
「その喧嘩買った。覚悟すると良い」
「嘘ですごめんなさぁぁあい!」
ハネマネ、ボルネルのコンビが俺達に同行したいと言うので断る。
「何でですか兄貴っ!?」
「いや、お前勘違いしてるみたいだけど、俺って成り上がりの冒険者じゃないぞ? 冒険はついでなの。釣りがメインなの。俺達は冒険の旅に出てるんじゃ無くて、釣りの旅をしてるの」
プレゼントした釣具を使って、水トカゲの依頼が閉じるまで随分と荒稼ぎしたらしい二人は、装備が見違えるようだった。
これなら俺について来なくても充分やって行けるだろ。その想いもあって、あとポロと二人きりのイチャイチャ旅を邪魔されるのも嫌だから断る。
「そんなっ……」
「て言うか察せよ。俺達は新婚だぞ」
新婚旅行中にアニキーとか言ってついてくる舎弟とかぶっ殺案件だろ。エントリーの舎弟達なんか「いってらっしゃいあにぃ! 姐さん! 楽しんできてくだせぇ!」と見送ってくれたのに。
まぁ引き止める奴も居たけど。
そうして二人とお別れをしたあと、グランプに乗って大通りを行く。その途中、オレンジ髪の女が居た。
「あ、お兄さん…………」
「よぉ、久しぶり」
目が合っちゃったから無視する訳にもいかず、俺はグランプを曳くリヴァイに命じて車を脇に止めて降りた。
気まずそうにするオレンジ髪だけど、俺はもうポロとイッチャイチャしまくったし、ピーちゃんとアオミも仲間になって、グランプなんて最高の乗り物も手に入れたからテンション爆アゲでもう気にしてないんだよな。
いや、王都来て良かったわ。ぶっちゃけステータス上げたのがオマケになってしまうくらいに。
「その、お父さんがあの後…………」
おもむろに語り始めた内容は、あの後親父さんがガチ凹みして立ち直るところから始まったらしい。
俺が言ったこと全部を真に受けて、まぁ間違った事を言ったつもりは無いから『真に受けた』は少しおかしいけど、とにかくぶっ刺さった言葉を頑張って咀嚼したんだとか。
それで、確かにやれること全部やってないと気が付いた親父は、まず立ち行かない宿を何とかする為に知り合いから金を借りたそうな。
それで俺の「笑えるヤツを雇え」を実践して、ちょっと仕事がアレだけどニッコニコ笑顔が眩しい女の子を雇ったんだとか。
その子がまぁ当たりも当たりのアイドル気質らしく、宿の客入りは増えて来たんだとか。
「それで、頑張れば本当に何とかなった事が逆にちょっと辛かったみたいで、私に何度もごめんなって…………」
「ふーん、良かったじゃん」
「でも、私は謝って欲しい訳じゃなくて」
「だったらそう言えよ。って言うか、『今まで頑張ったんだから、謝るくらいなら楽させてよね!』くらい言えよ。多分親父さんもその方が楽だぞ? よし、じゃぁ娘に楽させる為に頑張るかってなる奴だろ、あのお人は」
また俺が少しお節介すると、オレンジ髪は「ああ、そうすれば良かったんですね」と少し顔色が良くなった。
「…………そう言えば、美味しいらしい料理、食べてない」
「そういや、そうだな。…………ちょっと気まずいが、ちょっと寄ってみるか? なぁ、俺が行っても大丈夫そうか?」
ポロが親父さんの料理を気にしたので、最後にちょっと行ってみる事に。
「ぜ、是非! 来てください! お父さんもきっと喜びます!」
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